遺失物係

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 休日、友人と美術館に行った。美術館に入る行列に並んでいる方が長いくらいだったけれど、自粛ムードでなかなか会えなかった二人だ。話をしているうちに時間はあっという間に過ぎた。  美術館近くの喫茶店で、マンゴーと生クリームがたっぷり盛られたガレットを食べようとした時、私たちの座るオープンテラス席の下に、あの青年が立っているのに気付いた。 「今日も落としてましたよ」  彼の手の中には、こないだのねじの他に、長さ五センチくらいのちょっと太いねじが載っていた。 「涼子、だれ」  友人の声が浮き立っている。こないだはよく見ていなかったけれど、青年は目鼻が整っていて、彼女が常々好きだと言っていた俳優そっくりだった。 「知らない人」  私が彼に応じないでいるので、友人は遠慮して、それでもどうにも惜しいという様子でちらちら彼のいる方を見ていた。「行っちゃったよ、いいの」と言われたけれど、説明するのも面倒で黙っていた。  そのまま友人を家に呼んで、ビールを飲みながらタイ料理を二人で作った。途中フライパンを触ってしまって、左手の薬指に小さな水疱が出来た。ミュージアムショップで買ったはずのキーホルダーが鞄のどこにもなかった。 「イケメンに冷たくするから」と友人は自業自得だとつめたく笑った。
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