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「落としましたよ」
アメ横通りを歩く私の肩をとんとんと叩いた人がいた。振り向くと、夏なのに黒いスーツに黒いネクタイをしめた、一見少年のように見える男の人が立っていた。
「はい、これ」
それはねじだった。長さ三センチくらいで、頭に十字の穴が開いている、なんてことないねじだ。でもそんなねじ、心当たりはまるでない。
肩にかけているビジネスバッグには大事な資料が入っていて、私はいつもより過敏だった。早足で通りを抜けた。追いかけてくるものと思っていたけれど、すぐに諦めたと見え、後ろから足音はしなかった。
その日はカブのシチューを作って独りで食べた。本当はベーコンを入れたかったのにうっかり買い忘れたので、仕方なくハムを入れた。ハム入りのシチューは優しい味で美味しかった。
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