プロローグ:始まりのイマジネーション

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 11月。秋の夕日はつるべ落としの如し。太陽が一目散に沈んだ後、教室は窓越しにも床からも冷やされていた。  カーデガンを引っ張って指先を暖めたい。でも、描いている漫画の原稿が汚れてはいけないから、逆に腕まくりをしてペン入れをしていた。  机に齧り付く私は、ジャージのズボンを制服のスカートの下に穿き、青色モコモコマフラーを首に二重に巻いて寒さを凌ぐ。これが秋冬部活スタイルだ。 「平山、いつ帰る?」  同じ漫研部員の駿河耕太郎が、ふと読んでいた漫画から顔を上げた。つられるように私も顔を上げ、黒板の上、丸い掛け時計を見た。  18時まで、あと10分。教室の蛍光灯が白くて眩しい。私は眼鏡のブリッジを、右手の人差し指の付け根で押し上げた。 「このページ終わるくらいかな」 「オッケー。ちょうど読み終わるわ」  駿河が読んでいるのは、私オススメの美少女戦隊モノだ。作画も構成も素晴らしい漫画。時々駿河の目が鋭くなるのは、ちょいエロのシーンがある辺りだろう。  1年生は既に帰宅して、部室には部長の私と副部長の駿河だけが残っていた。  遠くに硬式野球部のバッティングの音がする。片想いの山田くんはまだ頑張っている。あの音が私に元気をくれる。  入稿まであと一週間。拘りが強すぎるっていうのは、自分でも分かってる。パパッとトーンを貼って、細かいところはベタ塗りにすればいいってことも。けど、私はペンでチマチマと『四カケ』の網を入れていた。
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