第十現象・町を襲う恐怖

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 総合病院の従業員用の駐車場にバイクを停めたキズオは裏口から侵入してトイレで上着を脱いでバッグに入れ、白衣を着て眼鏡とマスクをして通路に出て楽しそうに時折りスキップして歩く。 『血霊(チダマ)が踊っているぜ』  白衣の下にはメスではなく、数字のナイフを忍ばせている。 『ゼロは無限。1は始まりの数字』  何度か偵察に来ているので死角になる場所と侵入経路は把握し、一階の診察室を素通りして閑散としたロビーを眺めながら階段を上がった。 『まるでセレモニーホールだな』  しかも二階へ行くと呪われた者が重症になり、医師も看護師も対応に追われて右往左往している。 『なんて、騒々しさだ』  キズオは警察官が不在なので、もしバレても構わないと堂々と通路を歩き、医師の回診のように病室の出入り口から覗き見して行く。 『さて、本条家の者は何処にいる?』  一応、呪いの侵攻具合を現場調査して、階段を上がり三階のフロアもさり気無く見て回った。  その姿が通路の防犯カメラに映っていたが、警備員も欠勤して実質見たのはハッキングした須宇児(スウジ)だけである。  そしてスクールを出た美加はピンクのラパンで病院へ向かい、町の上空に暗雲が立ち込めているのを見上げて、身体の中に憑依した由樹の霊魂が悲しそうに囁いた。 『恐怖が空を覆い尽くし、人々の心に重くのし掛かって呪いに相乗効果をもたらしている……』  その声は美加に聴こえてなかったが、嫌な雰囲気がしてサングラスをすると、瞳がエメラルドグリーンに輝き、全身に鳥肌が立って金髪も逆立ち、静電気でビリビリと痺れて意識を半分ほど奪われた。 『悪いけど、ちょっと身体を借りるね』
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