2.

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 伯爵の後にくっついて、応接室のフレンチドアから中庭に出た。  夏の太陽が輝いている。爽やかな風が吹いている。  伯爵は胸ポケットに差していたサングラスをかけられた。そうすると、ちょっとU2のボノに似ている。高い鼻梁に大ぶりなフレームがよく映える。  バラの植え込みが広がる向こうに、城館本館に負けないほど巨大な建物があった。ただ、壁面は本館のような石組みではなく、すべてガラス張りで、中の緑がぼんやり透けて見えた。植物園にある温室のような建物である。  近づいてみると、実際それは、温室だった。それも、ぼくが見たこともないほど広大な温室だ。  中に入った途端、もわっと湿度の高い熱気に押し包まれた。  頭上を覆う、太い枝。日を遮る、濃い葉叢。足元に伸びる、細い土の道。木下闇に揺れる、毒々しい原色の花。めまいがするような、蜜の匂い。脅かすような、鋭い鳥の鳴き声。  ロンドン近郊のサリー州から、突然アフリカにワープしたかのような熱帯樹林の世界であった。 「これはまた……」  思わず嘆声を上げかけると、伯爵が、しっ、と叱りつけるように囁かれた。「ここでは口を利かぬように」  慌ててぼくは、両手で口を塞ぐ。  伯爵はゆっくりと土の道を辿って、樹林の奥へ分け入って行かれる。やがて樹樹の壁は途絶え、草原が現れた。その先には岩山があり、湧水が溢れ、小川になって手前に流れている。  その時だ!  ざざっと、すぐ頭上の葉叢が揺れ、枝から何か白いものが飛び出して、ぼくの目の前にすっくと立った。  驚きの叫びを上げそうになり、再び両手で口を塞いだ。
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