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3.
木から飛び降りてきたのは、一人の少女であった。
年の頃は十歳を少し出たぐらい。金色の髪は手入れもせずぼさぼさに伸び放題だが、肌は抜けるように白い。
しかし決して不健康な印象ではなく、むしろ長く伸びた四肢、しなやかな筋肉と敏捷な動作、何より、一糸まとわぬ全裸であることで、一匹の美しい獣のように見えた。
ぼくのことは胡散臭そうに眺めたが、伯爵には警戒の色を見せず近寄った。慣れているのだろう。と言うか、馴らされているのだ。
甘えるように伯爵のたくましい胸にもたれかかる。その頭を伯爵が撫でられた。鼻にかかった嬉しそうな声が、少女の桜色の唇から漏れた。
すると、草原の中から、もうひとつの影が立ち上がって、こっちに走って来た。漆黒の髪の少年。もちろん、彼もまた全裸であった。
少年も、ぼくなどには見向きもせず、伯爵に身を摺り寄せた。伯爵は彼らが可愛くてたまらないように、優しい微笑を浮かべていらっしゃる。
と、少年が、何か叫んだ。
言葉以前の言葉とでも言おうか。それは音楽のように豊かな響きで、この巨大な温室を震わせた。
声を聞きつけた他の少年少女たちが、木の上から、草の陰から、岩の横から次々に現れ、ぼくらの方に向かってきた。
その数、百人くらいだろうか。
全員が十代前半らしい。そして全員が全裸であった。しかし誰一人、羞恥の色もない。
生まれた時から、生まれたままの姿で過ごしてきた彼らを見ていると、服を着ている方がむしろ不自然で恥ずかしいように思えてきた。
伯爵が、傍らの木の幹に指を触れられた。幹がぱかっと開いた。その空洞に手を差し入れ、何かをひとつかみ取り出された。
伯爵にまとわりついていた少年と少女が、揃って大きな叫びを上げた。
歓声のようだった。
伯爵はまず二人にひとつずつ与え、残りを、迫ってくる少年少女たちに向かって放り投げられた。
彼らは先を争うように、それを受け止めた。
茶色の、キューブ状のものに見えた。
何だろう、と思っていると、皆ぱっと口に入れ、貪るように咀嚼した。食べ物らしい。
伯爵はさらに木の空洞に手を突っ込み、取り出しては放り投げられた。百人ほどもいる全員に行き渡るまで、それは繰り返された。
すると、最初に食べた者から、ゆっくりと地面にくずおれ始めた。ぼくは呆気に取られた。全裸の少年少女たちが、ばたばたと倒れていくのだ。白い肉体のドミノ倒しである。
折り重なるように肢体が並んで、たちまち辺りを埋めていった。
「さて、もう話しても大丈夫だ」
伯爵がおっしゃった。
ある程度予備知識はあったものの、ぼくには何が起きているのかわからなかった。好奇心がはちきれそうだった。
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