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「皆、よく眠っている」  伯爵は足元に倒れた少女の顔を伺い、満足そうに言われた。  木の空洞にまた手を入れ、茶色のキューブをひとつ取り出される。 「何ですか、それは?」  勢い込んだぼくの質問に、 「チョコレートだよ。この子たちの大好物でね。彼らに与えられるただひとつの甘みだし、特別につくらせたベルギーチョコレートの最高峰だからね」 とお答えになった。 「だが、残念ながらきみには勧められない。強力な睡眠薬が仕込んであるんだ。ここで昼寝がしたいなら別だが」 「写真を撮らせていただいても?」 「もちろんだとも」  ぼくは慌ててデジタルカメラを出し、周囲を隙間なく埋めた少年少女の肉体の海を撮影した。 「それでは次の段階に進もうか」  伯爵は指を口にくわえ、高らかに鋭い指笛を鳴らされた。恐らくキツネ狩りで猟犬どもを自在に操るため習得されたのだろう、その音色は見事のひと言である。  しかしいまは猟犬ではなく、人間が現れた。  奥の岩山の向こうから白衣の男女十人が出て来る。二人で一台、計五台の、大きな銀色のタンクを載せたワゴンを押している。草原のでこぼこした地面でも、不思議にスムースにワゴンは進んだ。  医者を思わせる白衣の男女。硬質に輝く銀色のタンク。  突然、熱帯樹林のターザン的な世界が、SFチックに変わってしまった。  彼らは倒れた少年少女の近くに来るとワゴンを停めた。  タンクからチューブを引き出し、その裸の腕に接続する。  そしてまた、別の子どもの腕に、別のチューブを繋ぐ。  一台から十本ほどのチューブが伸びて、届く範囲の幼い腕に結ばれると、ワゴンのスイッチを押した。機械の作動音がして、チューブは赤く染まった。  こうして百人ほどの少年少女が、みな五台あるワゴンのどれかに繋がれ、スイッチが押される度に機械の作動音が大きくなり、徐々に温室全体を満たしていった。  やがてぼくのすぐ傍にも一台のワゴンが来た。  伯爵に甘えかかったあの少女の腕に、白衣の女性が、手際よく針状になったチューブの先端を刺した。  ぼくは夢中で写真を撮っていた。  白衣の男性がスイッチを入れるとワゴンが唸り、銀色のタンクに、少年少女の腕からどんどん血が採られていくのが間近に見えた。  思わず、ぼくの喉が鳴った。
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