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 それはぼくにとって、初めての取材だった。しかも相手は、あの「伯爵」。まさにレジェンド中のレジェンド。これで緊張しないとしたら単なるバカだろう。  ロンドン近郊、サリー州のきわめて英国的な田園の中に、古くからそびえる城館が、ここ十年ほどの伯爵の居城である。通された応接室は、しかし建物の外観から想像できないほど、モダンで洗練された内装にリフォームされていた。  待つこと、五分。現れた伯爵は、これもイメージを裏切るカジュアルな服装で、ドルチェ&ガッバーナのカモフラージュ・ジーンズに、バーバリー特有のチェック柄シャツというコーディネート。爽やかな初夏の午後に相応しく、くつろがれたご様子だった。  だが、そのサファイヤのようなブルーの瞳と、高い鼻梁、残酷そうな薄い唇は、明らかに貴族の血統を感じさせ、貴公子に相応しい威厳を辺りに発散していた。 「ビジネスモデル・ジャーナル?」  ぼくの名刺を見て、伯爵は尋ねられた。 「は、はい。このほどわたくしが新たに立ち上げたWebマガジンでございまして、近年ようやくわれわれもビジネスを活性化して、も、もっと豊かに暮らそうという機運が高まっており、現に伯爵もこの度、新たなビジネスモデルを立ち上げられた訳ですが、そ、創刊号の巻頭にはぜ、ぜひ伯爵のインタビューをいただき、同じ希望に燃える同胞に檄を飛ばしていただきたくっ!」 「なるほど。しかしきみは、どうしてWebマガジンという仕事を、始める気になったのかね?」 「は、はいっ。われわれはどうしても伝統的に秘密主義のところがございます。特に対外的に守るべき秘密があるので止むを得ない部分もあるのですが、それでも今後ビジネスを発展させるためには、も、もっともっとわれわれ同士で情報を共有して、互いにせ、切磋琢磨をする必要があると思いまして!」  伯爵は、くすりと優雅に微笑まれた。 「そんなに緊張することはない。結構な趣旨だと思うよ」 「恐縮です!」 「では早速だが、話をする前に実際に見てもらった方がいいだろう。百聞は一見に如かずと言うからね。ついてきたまえ」 「はっ!」
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