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自分の部屋に連れて帰ると、この犬の大きさが
実感を増してきた。
六畳二間にダイニングキッチンという間取りだ。
当然のようにプードルは土足でズカズカ上がり込み、
まるで「ありがとう!」というかのように
立ち上がると、椅子に座った辰三の肩に手、
つまり前脚を掛けて顔を覗き込んできた。
顔を舐められた。
「初美が居たら何て言うかな?‥」
プードルはひとしきり部屋中をクンクン嗅ぎ回ると、
こう言った。
「ソワソワしちゃう‥な〜んて狭いおウチなん
でしゅか?」
ところが辰の耳にはこのように届く。
「ウッウッアンアンクゥーンンウッウー」
「おまえお腹が空いているんだな?で何食わせりゃ
いいんだ?」
プードルの右前足が、ちゃぶ台の上に置いてあったTVリモコンの電源の赤いボタンをたまたま、
的確に押す‥と、
「ピュールピュール♪ワンピュール〜♫」
「進化したドッグフード史上最高の旨さ!」
とドッグフードのCMが次々と流れてくる
タイムリーさである‥。
「そうか〜ちょっと待ってな!何か買って来てやる
からな。」
急いで自転車に跨り、近所のコンビニへ出かけて
行こうとする彼に、大家のマダムが声をかけてきた。
「コレ良かったら使ってよ!ウチのアレキサンダー
君がお散歩に使ってたリードよ‥血統書付きの
ボクサー犬で大きいくせに甘えん坊なコだったわ‥(ぴえん)だって朝晩、お散歩に連れて行かなきゃ
ダメでしょ?オシッコとウンチは外でさせてね!
部屋が臭くなるから‥いくらぶっ壊すったって、
それはダメよ!
飼い主さんきっと早く見つかるわよーだって
いい塩梅に毛もカットされてるしー、賢そうなコ
ですもん。」
その晩、辰三が居間の隣の寝室で、布団を敷いて
いるとプードルは当然のように、その掛け布団の
上に、長い脚を投げ出して横たわった。
「今日は少し疲れたワ‥もう寝かせてネ‥」
もちろん、彼の耳には
「ファファンファン、アッウーン」と
変換されて聞こえる。
電気を消して寝ようとしたが辰三は近い将来、
このマンションから出て行かなければならない
ことを思うと気が沈み始めたのだが、お構いなしに
この犬はますます、自由過ぎる寝相で圧迫してくる。
こうやって一緒の布団で小さくなって寝ている自分が、信じられない。
「犬ってのは体温高いんだなぁ、おまけに図々しいや‥」
その時、プードル犬は寝言でこう呟いた‥。
「ドーンマイ‥」
寝落ち寸前の彼の耳にも、それは確かにそう聞こえ
たはずだ。
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