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辰三が、迷子プードル犬の件を交番に通報したというのは実は大家の了解を得る為の方便だった。
「しかし今日こそ届けなきゃな‥今頃、飼い主が
真っ青になってオマエさんを探し回っているんじゃ
ないのか?」
明くる朝、食卓用テーブルで彼はトーストを
齧りながら、居間で寛ぐプードルに向かって言った。
犬に話しかける自分が不思議なのだが、
プードルときたらちゃっかり、ソファーに乗っかり
悠然とワイドショーを眺めている‥この風景いつか
経験した朝に似ている。
妻の初美が生きていた頃には当たり前だった
懐かしいもの‥。
『そうねぇそうかも知れないわねーさて、と
散歩に出かけましょ!そろそろ催してきたみたい‥
もうっ察してちょうだい爺やー』
(これ以後『』は、犬語にご随意に変換下さいますように!)
「それじゃあ出かけてくるよ初美。この別嬪さんの
ご主人見つけなきゃ、な?」
小さな仏壇に手を合わせ、祀ってある写真に
呼びかける辰三の背中に向かって、
『あら?案外お世辞も言えるじゃないの、
爺やー早くぅ』
「あんまり吠えちゃご近所迷惑だろ?わかった
わかった連れてってやるからさぁ」
『ってかーこのお古の首輪とリード、イカつ過ぎ
ないことー?クロムハーツっぽいけど偽物ネ』
「ハイハイ今、靴履いてるところだからよ」
言語の違いなど大したことではない、会話など所詮、
この程度噛み合えば成立するという良い例である。
外に出て早速、用を足したプードル犬に
『爺やーこっちだから』と先導されながらも
交番に向かうことにした辰三だったが、この直後
思いがけないハプニングに見舞われるのを彼は
まだ知る由もなかったのである。
波乱は何時だって突然に起こるものと決まっている、
もうっ神様の意地悪ぅ。
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