シャレオツ動物診療所

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シャレオツ動物診療所

「どうなさいましたー?」 大きな犬をお姫様抱っこした、辰三は 渡に舟とばかりに、その診療所の待合室に駆け込んだ。 「すみませ〜ん!この犬、たった今そこで突然 歩けなくなっちまってー骨折じゃなきゃいいんです がねー、至急、診てやって頂けませんかっ?」 「お名前は?」 「ワシですか?雨宮辰三ですが〜?」 「てゆーかワンちゃんのお名前は?」 ギャル系受付嬢に問われた辰三、またもや 「はっ、初美でーす。」 「ペットちゃんのお名前、雨宮はつみちゃんで 診察券お作りしまーす。いい?」 「あっいやっどう言っていいんだか‥まあ‥ そんなんでいいかもー」 『ったくもう〜女子の名前といえば初美しか この世に無いわけー?はー?ってことは〜もしや アタクシを男の目で見てるってことー? ヤバいヤバすぎるぜー辰Gと来た日にゃ‥あっっ ああっ痛いのー』 院長先生が現れるや否や、痛みに断続的に襲われるプードル初美。 『あっ痛っ院長先生のお名前すてき〜。 キムラノタグヤだなんて〜痛っ恐れ入りますぅ 辰Gからの、タグヤセンセーにお姫様抱っこバトン タッチだなんて〜神様に感謝ですワ!ぁんいた〜い』 「どうかっ初美を助けてやって下さい先生っ!」 処置室に運ばれるプードル初美を待つ辰Gは、 気が気ではない。昨日出会ったばかりの得体の 知れないデカ犬のせいで、子供の怪我に付き添う 親の気持ちがやっと量り知れたのである。 「神様お願いします‥どうかあのコの足を元通りにしてやって下さい‥」 今やそんな祈りを捧げんとする、自分が‥ くすぐったいよぅー。 「‥どうやらワシは‥もう‥すでに犬の居ないあの 平凡な日常に、戻れないのかも知れぬ‥」と 天井を仰いで、込み上げる熱いものをなんとか 凌いでいると、やがて現れたタグヤ先生が素早く、 壁にもたれ腕組みのポーズを取り、仰るには、 「彼女の足の症状ですが‥犬にとっては急所に近い、肉球と肉球の僅かな隙間に、それはそれは小さな 鋭い異物が1本入り込み、彼女を立てないほどに 苦しめていたんですよったく! 我々は、ミクロとの格闘に挑み、消毒済み ピンセットを用い、無事取り除くことに成功しました‥。」 「それってもしかして足の裏にトゲが刺さってたよーってことですかい?」 それに対して、ウインクと微笑み返しで意味ありげに答えるタグヤせんせー。 その足もとにうっとりもたれかかり、見上げる プードル初美。 そういえば、ここの待合室には飼い主マダム達が、 瞳をキラキラさせてお座りされていますね。
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