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昔からやたらと、道を尋ねられる人生だった。引っ越してきたばかりの知らない街でも道を聞かれた。地元民のこなれた雰囲気でも出ているのだろうか。
そんなことを考えているのは、今、外国人のバックパッカーに道を聞かれて、拙い英語と身振り手振りで必死に応対しているところを、暴走してきた大型トラックにはねられ宙を舞っている最中だからだ。
ああ、三十路の独身彼氏ナシ町工場の地味事務員として終わるのか。道を教えることは多かったが、自分自身はどこにも辿り着けない迷い子なような人生であった。あ、今ちょっとうまいこと言った。
………
………
………
あれ？ なかなか死なないな。
「ハロー ハゥワーユー？」
？？？
薄れゆく意識から引き戻され、寝転がったまま目を開けると、そこは遠近感も糞も無い真っ白な世界であった。何事かと身を起こそうとして気付く。負傷したはずの身体がどこも痛まない。呆然として振り返ると、今話しかけてきたらしき老人と目が合う。慈愛に満ちた青い瞳、白い長いヒゲ、ローブ……。某魔法魔術学校の校長を思わせる外国人のおじいちゃんである。
「……え。えーと。ファーイン。センキュー。……。……。エンジュー？」
「ファーインセェンキュー」
ちょっとだけ私より良い感じの発音で返された。ムカつく。
「いや待って。トラックにはねられてにファーインもないし、その見た目でカタカナ英語もないけど」
オー！？ とか言った後、老人は相変わらずのカタカナ英語で色々喋っていたが、意味はわからなかった。めちゃくちゃ訛っている津軽と沖縄の年寄りが精一杯の標準語で話したらこんな感じだろうかと思いながら、こちらも知っている限りの英語と身振り手振りとを繰り出して意志疎通を試みる。
しばらく頑張ってわかったのには、どうやら自分は、異世界に転生する予定の外国人バックパッカーの巻き添えで死んだらしいということ。件の外国人は既にチート能力を得て転生の流れにのったそうだ。
転生したら赤ちゃんからスタートなので当然異世界語で話すようになるし、神様が持つ翻訳機は、異世界語と英語の間をつなぐのみ。自動翻訳機能？ なにそれ。地球の他言語？ なにそれ。……だ、そうだ。
そして、巻き添え食らわせてしまったお詫びに、私の望む条件で、私の望む世界へ送って転生させてくれるそうだ。………たぶん。
で、どんな世界で、どんな人物に生まれたいかと。それを、英語で説明しろと。高卒の私に。英語とか赤点すれすれだった私に。
………
………
………
いや、無理ゲーが過ぎるだろ！
多少のラノベを嗜む私だが、異世界転生でこんな下りを読んだ試しが無い。酷いポンコツ神に当たったものだ。ともあれ、好きな世界で好きな役をさせてくれるというのだから許そう。
好きな世界……。
まぁ、悪役令嬢だな。ヒロインをざまぁして、王子様に溺愛されるやつ。
悪役……ヒール？ 令嬢……レディ？ ヒールレディ？ ダメだ、なんか酷いものにされそうな予感がする。悪役令嬢は諦めよう。
じゃぁ、あれか。勇者！……わからん！
じゃぁ、あれだ。取りあえず魔法の世界！……マジカルワールド？ で、グレートなビューティフルウィッチ。ヒストリーにネームを刻む……刻む、わかるかな？ 残す。レスト？ ってことね。もう、なんかこのあたりはジェスチャーで伝えてみた。更に美巨乳。ビッグバスト……で通じるかな？ あ、「オー。バインバイン」言って自分のエアおっぱい持ち上げてるから伝わったみたい。しかし、まったく威厳のない神だな。
歴史に名を刻むような偉業を成す、美人で巨乳な魔女。……あとは、あれだ。山羊座は嫌。「１に堅実２に慎重、３・４が地味で、５に努力家」みたいな言われ方され続けてうんざり。次は別の星座に生まれたい。
とはいえ、リーダー格の獅子座や、個性派の水瓶座、鬼コミュ力の双子座なんかは荷が重い。個人的に気に入っているのは、月を守護星に持つ地味星座の星！ しっとりと美しい母性の星座、蟹座！ 万歳セ●ラームーン世代！ 月に代わってお仕置きよ！……というわけで、
「キャンサーでお願いします」
蟹自体は英語で「クラブ」だし、巨乳の蟹にされることは無いよね。通じたよね？ 神様も「オーケーオーケー」言ってるし。
あとは何もないかな。本当は、露出の多い衣装で戦う文化のある世界が良い。折角の巨乳を振り乱し、見せつけながら戦えてムフフなのだ。が、必死にジェスチャーで訴えるも伝わらず、その内に恥ずかしくなって諦めた。
よし、まぁ、こんなもんでしょ。神様、いっちょ、やっちゃってー！
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