6日目 夜

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6日目 夜

 仕事は落ち着いたかい?  そうか。ああ、話す前にお願いがあってね。冷蔵庫に入ってる飲み物で、甘いものがいくつかあるだろう?好きな物を飲んで良いよ。  良いんだ。僕はもう飲めないからね。捨てるだけなら、いつも良くしてくれている愛徳くんに飲んでもらいたい。  気にしなくて良いよ。もらってくれてありがとう。座って。  昨日はどこまで話したかな?  ああ。そうだったね。癒生が散歩に行くようになった理由だったね。  その理由を知ったのは本当に偶然だった。癒生の所に行こうと廊下を歩いていたら、外に出る彼を見付けたんだ。そのまま彼の後を追ったら、中庭に着いてね。癒生は真っ白な野良猫と遊んでいたよ。いつからいるのかわからないが、その猫に会う為に癒生は外に出るようになったんだ。  そのまま癒生の隣にしゃがんだら、猫は怖がって逃げてしまって。癒生にそっぽ向かれてしまったよ。あの目は間違いなく文句を言っていたね。  そうそう。目は口ほどに物を言うからね。  その日から、癒生が中庭で猫とじゃれているのを見に行くようにしたんだ。彼に興味があったし、心を開いてくれる方法をずっと考えていたから、一緒に過ごす時間があれば少し変わるかなと思ってね。だんだん猫の警戒心は解けて、僕がいても逃げなくなった。まぁ、癒生は相変わらずだったね。チラッとこちらを見るけど、それ以上の反応はない。声をかけても同じだった。  頑なだよね。手を焼いたよ。懐かしいな。  それからしばらくして、癒生の診察をしてる時に、腕に新しい傷がある事に気が付いた。大きな引っ掻き傷で、どうしたのか聞いたけど、癒生は何も答えなかった。  そう。僕ももしかして猫のせいかと思った。けど、癒生から猫を遠ざけるのは可哀想だとも思って、何も言えなかった。その時の彼の支えはあの猫だけだったからね。  毎日ではないけど、癒生の怪我は増えていった。腕だけじゃなくて、足にも、首にも、顔にも、突然傷が出来る。不思議だった。怪我の種類も色々でね。引っ掻き傷、咬傷、擦過傷、熱傷、切傷、鋭利なモノを踏んだような傷、本当に様々で。それにね、生々しい出来たばかりの傷だけじゃなくて、治りかけの傷も、感染症を起こしている傷もあるんだ。どの傷も散歩帰りに気が付くから、看護師が癒生が外に出るのを禁止して欲しいと僕に言って来てね。でも、散歩が原因なら新しい傷が増えるはずなのに、もう何日も放っておいたような、汚い傷も出来る事の説明がつかなかった。  いや。命に関わるような傷はなかったね。感染症でしばらく熱が出たり、抗生剤を使ったりは必要なくらいの傷だったよ。  散歩の禁止は癒生のメンタルを考えるとあまりしたくなかったから、とりあえず様子を見ようって看護師を説得したよ。その数日後、僕は癒生の傷が増える理由を知った。  …ん?愛徳くん、君を呼んでいる声がするよ?何かあったんじゃないか?  ああ。良いよ、行ってきなさい。いつも聞いてくれてありがとう。また話そう。
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