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あれから一年。
琉斗からは何の連絡もない。
先月から新入社員も入って来た。いつまでも引きずっていてはだめだ。
しっかりしなくては。
頬を打ち気合を入れる。
「先輩っ」
改札を出たところで声をかけられた。
俺は期待して振り向く。
当然あのワンコの笑顔はそこにはなくて、途端にがっかりしてしまった。
「先輩? どうされましたか? 元気がないようですが」
「あー、いやなんでもない。それより木村はもう仕事には慣れたか?」
「まだ、慣れませんが先輩のご指導のおかげでなんとかやれています。他の部署の連中と話をすると僕は先輩の下で働けて本当によかったって思います」
にこにこと嬉しそうに話す木村。
その笑顔を見ると胸が締め付けられるようだ。
その笑顔はあいつを思い出す。
「そうだ、先輩よろしかったら今日帰りに飲みにでも行きませんか?」
「あぁ、そうだな。頑張ってる木村に俺がおごってやるよ」
努めて明るい声で言う。
そうしていないと涙が零れてしまうから。
「わー、嬉しいです! えへへ。先輩と飲みに行けるなんて夢みたいです」
「大げさだなぁーはは」
ぽんぽんと頭を軽く叩き、はっとして手を引っ込める。
「わりぃ」
またやってしまった。
木村といるとあいつの事を思い出してあいつにやっていたように接してしまう。
そんなのただの代償行為……。何の解決にもなりはしない。
「僕、先輩に頭ぽんぽんされるの好きですよ? へへ」
「そっか」
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