プロローグ 神?

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プロローグ 神?

(らく)は道端に座り込み夜空を見上げていた。 楽はホストをしており、今日は珍しく飲みすぎてしまったのだ。 本当ならまだ働いている時間なのだが、あまりにも酔っぱらってしまい仕事にならないので早目に帰されてしまった。 「こんばんは~」 いつからそこにいたのか、楽のすぐそばに男が立っていた。 見上げると銀の髪を風になびかせ、すらりとした長身を真っ白なスーツで包み、胡散臭そうな笑みをその唇に浮かべていた。 やばい、と本能が警鐘を鳴らす。 逃げないとロクな目にあわない。 夜の世界に生きる楽は『勘』を大事にしていた。 感度のいいアンテナがなければすぐに騙され危険な目にあってしまう。 楽はふらつく身体で立ち上がり、これは。見なかったことにしようと決めた。 さっさと帰って寝なければ……。 「やだなやだな。無視しないでくださいよぅ。そして私のお願いきいてくださぃー」 「む、無理。俺急いでるんで」 「あなたしか頼れる人はいないんですぅー」 『あなた頼れる人はいない』という言葉に思わず楽は振り向いてしまった。 やっと楽と目が合い男はにやりと笑った。 やばい、と思ったがもう遅かった。 「何で、俺……?」 「それはですねぇー。私がだからでぇーす」 二人の間に沈黙が流れる。 無言のまま男に背をむけ立ち去ろうと試みた。 が、やはりもう無理で。 「わーわーちょっ待ってくださぃ―――」 焦り慌てて楽の腕を掴む男。 「あなたはー選ばれちゃったんですぅー」 「―――誰に?」 「わ・た・し」 自分を指さしうっふんとウインクをする。 うげ……。 げんなりする楽に構わず話を進める男。 「それでですねぇーこの子をあなたには育てていただきたく—」 と楽の前に押し出されたのは猫耳のついたフード付きのコートを被った水色っぽい、小さな綺麗すぎるこどもだった。 楽は眉間に皺を寄せた。 そのくらいのこどもにしては表情が乏しく、およそこどもらしくなかったのだ。 「おや?気が付いちゃいました?そうなんですよぅこの子、前のがまーったくこの子に関心をむけて下さらなかったのでこんな感じにーなっちゃってー慌てて新しい人探してたところだったんですぅー」 なにがおもしろいのかにこにこと笑顔で、しゃべる内容と表情があっていない。 「わけわかんねーこと言ってんじゃねぇ!小さな子がこんな風になってるなんて、笑えないっ」 「うんうん。そうですよねぇ」 そう言って何度も頷く男。 「そこで、です。あなたにーこの子のお世話をーお願いしたいんですぅ」 「だからー何言って!この子の親はどうしたんだ!」 楽の言葉に急にまじめな顔になる男。 「厳密には親というものは我々には存在いたしません。ですので、この子は人間にお世話してもらって沢山の事を学ばねばなりません。この子がどのような神になるかはお世話係さん、なのです」 「は……?」 「人間界で言うところの『パピーウォーカー』みたいなものですかね?」 人間を犬に例えるやなんて何考えてんだよ?! それに神なんているわけない! 本当にいたらあの時だって―――! 「まぁ信じるも信じないもあなた次第ですぅ。ただ、あなたに断られてしまうとーこの子はもっとひどい目にあうかも、しれませんー?」 「うぐ……」 こう見えて楽はお人よしだ。 夜の世界に生き、飄々と生きているように見せてはいるが涙もろく世話好きで。 今日飲みすぎてしまったのも客の話に感情移入しすぎた事が原因だった。 「わーったよ……」 こうして楽は神と言われるこどものお世話係になった。
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