隣人はあの有名アイドル!?

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週末、時間ピッタリに自宅のインターホンが鳴った。それと同時に自宅を出ると皇が待機していた。 「おはようございます、千晃さん」 「おはよ」 目の前には、今日もピカイチの笑顔を見せる皇が。さすが芸能人と言ったところか、変装風に服を黒で統一しているものの、オーラが滲み出ている。 「千晃さん、今日ここの遊園地行こうと思うんですけど、大丈夫ですか?」 「俺はいいけど…皇くんは大丈夫なの?こんな人多いところいって」 皇が見せてきたのは都内でも上位を争う人気遊園地。そこは平日も混み混みで常に賑わっている場所だ。そんなところに話題の皇が行ったりしたらどうなるんだ。 「俺は全然大丈夫です、千晃さんが良ければ」 「何顔赤くしてんだよ」 多分俺以外の人が見たらイチコロであろう皇の照れ顔。ストーカープラス盗撮魔ということを知った俺はもうそんな風に見れない、今も背筋に寒気がした。 「嬉しいんだからしょうがないじゃないですか。好きな人とこうして一緒にデート出来るってなって、ニヤケない人間がどこにいるんですか」 言葉のあや、というのか。その言い方では俺が好きな人になってしまう。 「お前、そういう発言軽率にすんのやめとけよ…?誤解されるぞ」 「俺、千晃さんにしかしないです…」 そう呟いた皇の声を、俺は聞き取れなかった。 「…あの、千晃さん」 「ん?」 「名前で呼んで、くれませんか」 「名前?」 首を傾げると、皇は俺にずぃっと顔を近づけて大きく息を吸う。 「皇逸喜、なので、いつき、って、呼んで欲しいです」 「注文が多い。皇で我慢しろ」 出会った日から思っていたが、要求が謎すぎる。このアイドルを逸喜、なんて呼んだらどこから刺されるか…… 「千晃さん、だめですか」 「だめだ」 多分甘えるような顔をしている皇。そんな皇の顔を見ては罪悪感で呼んでしまいそうなので俺は皇を無視して先を歩いた。 「千晃さん大人気ないですよ」 「はぁ?あんま生意気なこと言うと帰るからな」 「え!?それはだめです」 大人気ないなんてわかってる、けどこの皇ストーカーに言われるとなぜかムカつく。お前も随分生意気だけどなと言ってやりたくなる。 「千晃さん、怒ってます?」 「怒ってない、いつもこんなんだよ」 「ごめんなさい、怒ってますよね。千晃さんはもう少し柔らかい表情しますし」 「は?」 「えっ、あ…」 急に体が金縛りにあったかのように固まった、俺も皇も。皇は自分の失言にすぐ気づいたようで、俺もその発言の意味にすぐ気づいた。 「お前さ…」 「千晃さん嫌わないでくださいお願いします…!千晃さんの柔らかい表情が1番好きで!いやあの違くて、いや違くはないけど!だって、しょうがないじゃないですか…」 「開き直んなよ…」 多分俺の予想は命中のようだ。皇がくぅんと泣きそうな犬のように俺には見えた。 「いいから、そろそろ駅に向かうぞ」 そこでやっと俺たちは歩き出した。ほんともう、この皇逸喜には驚かされることが多くてもう慣れてきてしまったのかもしれない。
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