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シーン2
東京都内某所のオフィス街
中ぐらいの高さの特徴の無いビル
最上部に「令和エレクトロニクス」というロゴ
その中の小さな会議室
毬夏が春物のビジネススーツで、マスクを着けて机の反対側に座っている
毬夏の反対側にマスクを着けたワイシャツにネクタイの中年の男性
毬夏、ひきつった表情で
「ええ! 週2日に変更って、どういう事ですか?」
男性「新型コロナウイルス騒ぎで、わが社への注文も激減してるのは知ってるでしょう。仕事もないのに、週に5日働いてもらうわけにはいかないんですよ」
毬夏「それにしても急過ぎます。4月1日からって言ったら、もう1週間もないじゃないですか」
男性「まあ、そこは申し訳ないとは思うが、失業するよりマシだと思ってもらえませんか。あなたは経理担当だから週2日という条件で残れるんですよ。営業や総務の他の契約社員さんたちは、契約解除、つまり事実上クビになる人も多いんだから」
毬夏「でも私は日給制の契約社員だから、お給料半分以下になっちゃうじゃないですか」
男性「その代わり、契約社員は副業とかアルバイトは、今回は全面的に許可しますから。なんとか、この騒ぎが終わるまでがんばって下さい」
毬夏「そ、そんなあ!」
廊下、会議室の外。毬夏がドアを閉めうなだれて歩き出す。
毬夏「なんでわたしの人生、こうついてないのかな?」
毬夏の回想シーン
大きなビルの一階の入り口。全ての扉が閉ざされていて、張り紙に
「突然ですが弊社は破産手続きとなりました」
ビジネススーツ姿の大勢の男女の中に毬夏の姿
毬夏モノローグ
「高校卒業して正社員になったその年に会社が突然の倒産。やっと契約社員だけど再就職できたと思ったのに」
菅原義人「小林さん!」
後ろからそう声をかけられて毬夏振り向く。菅原もマスク着用
毬夏「あ、菅原さん」
菅原「会議室に呼び出されていたみたいだけど、何かあった?」
毬夏「はい、来月から週に2日だけの勤務になるって」
菅原「それは大変だな。うちの営業1課でも、契約社員の人たち3人とも辞めさせられる事になって、大騒ぎだよ。でも小林さんは残れるんだね。経費の精算でいつもお世話になってるから、ほっとしたよ。じゃ、がんばって」
歩き去っていく菅原の背中を見つめながら
毬夏「菅原さんって優しいなあ、正社員なのに。女子社員にモテモテなはずだわ。でもまあ、あたしみたいな契約社員には高嶺の花だよね」
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