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続・魅入られて
僕がその子を初めて見たのは、5歳下の弟の雅士が家に連れて来た時だった。
雅士が中学に入ってから直ぐに親しくなった子で、和弘くんと言う名前の男の子。
生意気で可愛げの無い雅士と違って、凄く素直そうな感じの子だった。
雅士が和弘くんを家に呼んだ時に一度だけちらっと見たくらいで、まともに話した事はない。
向こうはきっと僕の顔なんて憶えてないだろう。
雅士は和弘くんを家に呼んでる時は僕に会わせようとしないからだ。
その理由はわかっているけど。
僕と雅士は、好きなタイプがよく似ていた。
素直で裏表のない可愛い子。
さすがに雅士の恋愛対象は女の子だけど、和弘くんはまだ幼い感じがして男臭くないから、雅士は多分、友達として和弘くんを気に入ってるんだと思う。
僕が和弘くんを気に入るかも知れないと思って、僕に近付けたくないんだろう。
雅士からの話でどんな子なのかはよくわかったから興味はあったけど、雅士も僕の好きなタイプは知っていて、僕が男も恋愛の対象になっているのも知っているから近付かせてくれない。
そこまでされると余計に興味が湧くものだけどね。
和弘くんが通ってる塾の場所とか、通学の時によく通る道も、知る事ができたのは雅士からの情報だ。
僕に近付かせたくないわりに情報は提供してくる。
自分は仲良しだっていうアピールなのかも知れないけど。
そんなうかつな雅士のお陰で、和弘くんの行動範囲は把握していた。
本当は、襲うつもりなんてなかったんだよね。
あの時はつい魔が差したというか。
雅士の部屋に遊びに来てる時は顔を出すなと言われてたから、顔を見るのは久し振りだった。
いつも雅士の部屋から聞こえる声を聞いて、どんな表情をしてるんだろうって想像してるだけだったから。
あの日も、いつも和弘くんが通る公園を歩いてたら、予想通り前方に姿が見えた。
塾が遅くなってるのは雅士に聞いて知ってたから。
すれ違うだけのつもりが、怯えた子猫のような表情を見たらどうにも抑え切れなくなって、気が付いたら引っ張って押し倒してて。
思った以上に快楽に弱い敏感な体に、これまでになく興奮した。
今までどんな相手に対してもここまでがっついた事はなかった。
つい夢中で貪って、気付いたら失神させてしまってた。
水道のある場所にハンカチを濡らしに行って、体を清めてから背負って彼の家に運んだ。
彼のお母さんには感謝されてしまった。
ベンチで寝込んでて声をかけても起きなかったって嘘をついたけど、和弘くんのお母さんは、最近ちょっと疲れてたんだろうって言って全然疑問に思われなかった。
ストレスを溜めてるのは、雅士から聞いて知ってた。
そして和弘くんはストレスが溜まると雅士を誘って遊んでるのも知ってた。
もちろん、いかがわしい遊びじゃなくて、一緒にゲームするとかDVD鑑賞といった健全なものだけど。
翌日、和弘くんは雅士の所に遊びに来た。
僕は顔を見せるなと雅士に言われているから会う事はないと思ってたけど、雅士が嫌そうな顔で僕を呼びに来た時は驚いた。
公園から運んでくれたお礼を言いたいって。
僕が和弘くんをあんな目に合わせた張本人なんだけどね。
そして雅士の部屋を覗いて、自己紹介した。
僕の顔を見て呆然としてたから、公園で襲ったのが僕だと気付いたんだろう。
だから、耳元で囁いた。
ストレス溜まったら僕の所においで。
和弘くんはまだ呆然としてたけど、僕はそのまま自分の部屋に戻った。
多分これで確実に和弘くんに軽蔑されただろうし、もう僕には近付いて来ないだろう。
和弘くんみたいな初心で素直な子は、軽い気持ちで弄んじゃいけないってわかってたハズなんだけどな。
それに僕は見境なく相手を襲うような、あんな理性のない行動は今まで取った事がなかった。
何であんな行動に出たのか、自分で自分が理解できない。
欲求不満だった訳でもない。
これでも、性欲を満たすだけの相手には不自由していないから。
じゃあ、何故。
頭の奥ではわかっていたけど、自覚したらダメだと思った。
和弘くんにあんな事をした僕にはそんな資格はない。
そうは思っていても、気持ちは段々と大きくなるばかりだ。
セフレのような関係の相手はいるけど、そういう相手ではもう満たされなくなってしまっていた。
性欲は満たされても、心が満たされない。
僕の心を満たしてくれる存在はひとりだけ。
あれからひと月くらい経っただろうか。
雅士を通して、和弘くんから僕に連絡が来た。
何を言われるんだろう。
あれ以来、僕は和弘くんの前に姿は見せていない。
僕が在宅中に雅士の部屋に遊びに来てる気配がある時は極力部屋から出ないようにして、鉢合わせないようにしていたし。
だから、顔を見たくないとか関わりたくないみたいな事を言いたくて連絡してきた訳ではないだろうと思った。
まさかほんとにストレス溜まったからじゃないだろうけど。
和弘くんは、雅士に案内されて僕の部屋にやって来た。
何か言いたげな顔の雅士を追い返して、和弘くんを部屋に入れるとドアを閉めた。
所在なさげにしてる和弘くんを座椅子に座らせる。
テーブルを挟んで向かいに座ると、僕は和弘くんを見つめた。
「久し振りだね。今日はどうしたの?」
「あ、あの、この前言ってた事⋯⋯」
「ああ、ストレス溜まったらおいで、って言ったやつ?」
「えっと、はい。あ、別にストレス溜まってる訳じゃなくて。その、どういうつもりで言ったんだろうって、ずっと気になってて」
訊いてもいいのかどうか迷ってるような感じで、和弘くんは僕をちらちらと見てくる。
「深く考えなくていいよ?」
「え?」
「僕は男でも女でも、どっちでも抱けるんだ。それで、欲求不満になったら適当に相手を探して発散してる。あの時はたまたま和弘くんを見かけて、ちょっと脅かすつもりだったんだけど、怯えてる和弘くんが可愛くて襲っちゃったんだ。ごめんね?」
わざと自嘲気味に言って、和弘くんの反応を見た。
どう返事をしたらいいかわからないといった顔で僕を見ている。
こんな軽く謝られても、きっと和弘くんは納得しないだろう。
あれは、言ってしまえばただのレイプだから。
和弘くんが感じたのが苦痛だけだったなら、きっとこうやって僕の所には来なかった筈だ。
僕が和弘くんに高揚した分の半分でも、和弘くんも快楽を感じてくれてたらいいなって思う。
「だから、和弘くんもその1人ってだけだから、あの時の事は忘れてくれていいよ?でも、気持ち良くなりたかったら言ってくれたらまた相手するからね?まあ、雅士にバレたら面倒だから、もう僕には近付かない方がいいかも知れないけどね」
そう言ってにっこり笑って見せる。
僕の本当の気持ちなんて、和弘くんは知らなくていい。
こんな綺麗な心の子をこれ以上弄んで汚したらいけない。
気持ちを告げる気は無いけど、和弘くんが求めてくれるなら喜んで相手したいという気持ちはある。
多分、身体の相性は凄く良かった。
あれ以来、他の誰かとやりたい気持ちにならないくらいに。
和弘くんは表情をなくしたような顔で僕を見つめていたけど、僕から視線を外すと辛そうに俯いて唇を噛んだ。
「そういう相手、たくさんいるんですね」
泣きそうな声でそう言うと和弘くんはゆっくり顔を上げる。
だけど僕と視線が合う事はなかった。
これで完全に嫌われただろう。
その事に、何故か胸が痛む。
そう仕向けたのは自分なのに。
「うん。相手には困ってないよ」
にっこりと笑って、心にもない事を言う。
本当は和弘くんを犯して以来、誰とも寝ていない。
他の誰かに対してそんな気持ちにならなくなった。
定期的に遊ぶセフレは女も男もいたけど、誰に誘われても気持ちが動かなくなった。
男のセフレは見た目とか雰囲気が和弘くんに少し似てるけど、やっぱり全然違う。
もう、和弘くん以外要らない。
だけど僕は最低な強姦魔だから、和弘くんを好きになる資格なんてないし、好かれる可能性もないだろう。
あれから再び和弘くんとの接点はなくなった。
雅士は和弘くんが来た時の事を何も訊いて来ないけど、何かしら察しているとは思う。
前以上に、僕が和弘くんと家で鉢合わせするのを警戒するようになったから。
もしかしたら雅士は和弘くんの事が僕と同じ意味で好きなのかも知れない。
最近は大学の帰りに、和弘くんが行っている塾の近くを通る。
偶然にでも姿を見る事ができればいいなって思って。
何だか、やってる事が女々しいというか片想い中の女の子みたいで笑えるけど。
その日は偶然、和弘くんが塾から出て来る所を見た。
友達数人と出て来て、直ぐに彼らと別れて歩き出す。
何となく、その後をつけてしまった。
声をかけるつもりもないのに、これじゃストーカーだ。
距離を置いて尾行していると中年の男が和弘くんに声をかけたのが見えた。
和弘くんの知らない男だったようで、警戒するような視線を向けている。
どんな会話をしているのかは聞こえないけど、和弘くんは男を拒否しているように見えた。
何かトラブルだろうか。
和弘くんが男に背を向けると、男がスマホを取り出して何か言う。
振り向いて、スマホを見た和弘くんは顔を青ざめさせた。
嫌な予感がする。
男は和弘くんに何かを見せて脅しているように見えた。
和弘くんが泣きそうな顔で俯く。
中年の男はそんな和弘くんの肩を抱いてどこかへ連れて行こうとした。
男の目的は何となくわかっていたけど、どこで止めに入るかタイミングが掴めない。
どうにか止めようと、彼らを尾行する。
念の為、スマホのカメラを起動して動画モードにして何時でも撮れるようにしておいた。
そして中年の男は予想通り和弘くんをラブホに連れ込もうとした。
思わず走って距離を縮める。
和弘くんも、自分がどこに連れて来られたのか気付いて男から逃げようとしていた。
しかし男は和弘くんの手を離さない。
僕は動画の撮影を開始した。
距離が近付くにつれ和弘くんの声も聞こえてくる。
「やめて⋯⋯っ、離してっ」
「この動画をネットで公開してもいいのかい?」
抵抗する和弘くんに、男がスマホを見せながらそう言う。
和弘くんは一瞬動きを止めた。
動画?公開?
男は和弘くんの動画を持ってる?
それをネタに脅してるのか?
録画しつつ、2人に近付く。
2人はまだ僕には気付いていない。
男は抵抗を弱めた和弘くんをラブホの中に連れ込んだ。
決定的な瞬間は録画した。
そのまま追いかけて入口を潜ると、男は壁のパネルで部屋を選んでいるところだった。
「ちょっとおじさん?未成年をこんな所に連れ込んで何するつもりなの?」
僕が声をかけると、男はビクッと肩を震わせて振り向いた。
和弘くんも顔を上げて、僕だと気付いて目を瞠る。
「な、何を言ってるんだ」
男はしどろもどろになりながら誤魔化そうとした。
僕は男に自分のスマホを見せる。
「おじさんがこの子をここに連れ込む所、しっかり撮ってるからね?今すぐその手を離さないと、この動画を警察に見せるよ?」
「くそっ」
僕がにやりと笑って脅すと、男は和弘くんの手を離して逃げ出そうとした。
そうはさせない。
僕は男の手を取ると、その手にあったスマホを取り上げた。
男がスマホを取り返そうと殴りかかってくるのを交わし、男の股間を蹴り上げる。
男は変な声を上げて膝をついた。
その隙に男のスマホをチェックする。
「!!」
スマホに記録されていたのは、僕が公園で和弘くんを襲った時のものだった。
白濁に塗れて気を失っている和弘くんの足元から顔までを舐めるように撮っていた。
和弘くんの体を綺麗にするために、ハンカチを濡らしに行っている数分の間に撮られたものだろう。
あの時、他にも誰か居たなんて気付かなかった。
それだけ和弘くんの体に夢中になってしまっていたから。
男が復活する前に動画を削除した。
他にもウェブ上とかに保存されていないかをチェックする。
どうやらスマホ以外の媒体には保存していないようで安心した。
まだ悶絶している男の方にスマホを投げる。
「次またこの子に手を出すような事したら、この動画を警察に見せておじさんを破滅させるからね?」
そう言うと、僕はまだ棒立ちになっている和弘くんの手を取って歩き出した。
和弘くんは抵抗する事なく、僕に手を引かれるまま歩いている。
僕のせいだ。
僕のせいで和弘くんに怖い思いをさせてしまった。
謝ったところで許されるような事じゃない。
それはわかっているけど。
「ごめんね」
口から出た謝罪は、自分でもびっくりするくらい弱々しかった。
「あ、あの。助けてくれて、ありがとうございました」
和弘くんは戸惑いがちにお礼を言う。
お礼を言われるような事なんて何もしてない。
むしろ責められるような事しかしてないのに。
「何で⋯⋯」
「え?」
「何で僕を責めないの?和弘くんがこんな目に遭ったのは、僕のせいなんだよ?」
「でも、助けてくれたから、未遂で済んだし」
「僕があんな事をしなかったら、その未遂すら起きなかったんだよ?」
「それは、あの⋯⋯」
和弘くんは言葉に詰まって俯いた。
僕には和弘くんの気持ちはわからない。
嫌われてると思ってた。
なのに、ちらっと見た和弘くんの目にはそういった感情は浮かんでなくて。
嫌悪とか軽蔑とか、そういった感情は読み取れない。
これはどう捉えたらいいんだろう。
そこからは会話もなく、僕は和弘くんの手を握ったまま和弘くんの家まで送った。
玄関先の門扉の所で手を離す。
和弘くんは何も言わず、離された手を見詰めていた。
家には誰もいないのか、外灯も点いてなくて真っ暗だ。
本当は和弘くんを1人にしたくないけど、僕が一緒だと和弘くんが嫌だろう。
「もしまた僕のせいであんな目に遭いそうになったら直ぐに教えて?」
そう言って和弘くんにスマホを出させると、メッセージアプリのIDを交換した。
「あ、あの!」
立ち去ろうとする僕を和弘くんが呼び止める。
振り向くと、和弘くんは瞳を戸惑いに揺らしていた。
「何?」
「あの、今日、両親帰って来ないから1人だと不安で。もう少し、一緒に居てくれませんか?」
「え⋯⋯」
和弘くんの言葉に、咄嗟に返事が出来なかった。
そして促されるままに家に招かれて、和弘くんの部屋に案内された。
和弘くんの部屋は雅士の部屋とは違って、きちんと整理整頓されていた。
シングルベッドに本棚に、ローテーブルと座椅子。
小さめのテレビにゲーム機なんかは雅士の部屋と一緒だ。
僕は座椅子に促された。
和弘くんは着替えもしないで向かいに座る。
「あの、引き止めちゃってごめんなさい」
「謝る必要はないよ。和弘くんがこんな目に遭ったのは僕のせいだし。むしろ僕の方こそ謝っても許されない事をした訳だし」
「公園で聡士さんにされたあれは、最初は怖かったけど、途中から気持ち良くて段々訳わかんなくなっちゃって⋯⋯」
和弘くんは顔を赤くして俯いた。
不思議と、その顔には嫌悪も軽蔑も浮かんでない。
憎まれても恨まれてもおかしくない事をしたのに。
少しは期待してもいいんだろうか。
「全部、僕のせいだね」
「⋯⋯そうです。聡士さんの、せいです」
「ごめんね。どうやって償えばいい?」
「あの、責任、取ってくれませんか」
「え?」
和弘くんは何を言ってるんだろう。
真意がわからなくて、思わず見詰めてしまう。
「僕、クラスに結構いいなって思ってる女の子がいたんです」
「うん?」
「ちょっと前までは、その子と話すだけで凄くドキドキしてました。もっと仲良くなって、告白したら付き合ってくれるかな、とか。付き合う事になったら、キス、とかもするのかな、とか。その先の事も⋯⋯とか考えたら凄くドキドキしてました」
和弘くんが言葉に詰まりながらも、好きな子の事を話す。
聞いていて胸が苦しくなった。
好きになる資格はないってわかってても、胸が苦しいのはどうしようもない。
「だけど」
和弘くんが真っ直ぐ僕を見つめた。
僕を責めたいんだろうか。
どんな言葉で罵られるんだろう。
「だけど、聡士さんにあんな事されてからは、その子と話しても全然ドキドキしなくなっちゃって。さっきの、あのおじさんに、気持ちいい事たくさんしてあげるよって言われたけど、あれは鳥肌立つくらい気持ち悪くて、凄く怖くて。なのに、聡士さんにされた時の事を思い出すと凄くドキドキして」
「え?」
「だから、僕をこんな風にしちゃった責任、取って下さい」
和弘くんが泣きそうな顔でそう言って僕を見る。
僕は都合のいい夢でも見てるんだろうか。
「⋯⋯責任、どうやって取ればいいの?」
「もう、僕以外の人と、ああいう事しないで欲しいです」
苦しそうにそう言ってぎゅっと閉じた和弘くんの目から涙が落ちる。
気付いたらテーブルを押しのけて和弘くんを抱き締めていた。
腕の中で薄い肩がビクッと跳ねる。
「ああもうほんとにごめん。ごめんね」
嬉しい筈なのに罪悪感に押し潰されそうで、口から出るのは謝罪ばかり。
和弘くんの望んでるのはそんな言葉じゃないってわかってるのに。
僕にとって都合良すぎる展開に、テンパってしまってる。
腕の中で和弘くんが身じろぎするけど、それを押さえ込むように更にきつく抱き締めた。
和弘くんが愛しい。
何がきっかけで僕を好きになってくれたんだろうとか、疑問は尽きないけど。
「好きだよ」
抱き締めたまま、和弘くんの頭に頬を擦り付けて告げる。
「えっ」
和弘くんが戸惑うような声をあげた。
「好きだよ。和弘くんの事が好き」
「あ、あのっ」
和弘くんが僕の胸を手で押すので、抱き締める腕を緩めた。
顔をあげた和弘くんと目が合う。
頬が紅潮して、瞳が揺れているけど、逸らされる事はなかった。
「ぼ、僕も、聡士さんの事⋯⋯好き、です」
消えるような声だったけど、はっきり好きって聞こえた。
和弘くんも、僕を好きだと。
こんな最低な強姦魔の僕を好きだなんて。
信じられなかったけど、和弘くんの瞳は嘘をついているようには見えなかった。
「何で、こんな最低な僕の事を好きって言えるの」
思わず疑問を口にする。
「わかんないけど、聡士さんの事がずっと頭から離れなくて⋯⋯体だけの関係の人がいるって聞いて、凄く嫌な気持ちになって、僕以外の人とああいう事してほしくないなって思っちゃって」
「和弘くんが僕の恋人になってくれるなら、他の人とあんな事しないよ。恋人になってくれる?」
震える肩に手を置いて、和弘くんを見つめた。
目元がほわっと赤くなったと思ったら、あっという間に耳まで真っ赤になった。
可愛い。
愛おしい。
そんな気持ちに支配される。
和弘くんは真っ赤な顔で、ゆっくり頷いた。
熱を帯びて赤くなった両頬に手を添えて上を向かせると、ゆっくり唇を塞いだ。
最初はビクッと肩を跳ねさせたけど、やがて肩の力が抜けて、おずおずと両手が僕の背中に回される。
緩く開いた唇に舌をねじ込んで、ゆっくりと口内を堪能する。
背中に回された手が、僕の服をキュッと握った。
それだけの事なのに理性がはち切れそうになってしまう。
ヤバい、可愛い、好きだ。
気付いたら、和弘くんをベッドに寝かせて覆い被さってた。
上から見つめる僕を目元を真っ赤にして見つめ返してくる。
もう何をされるかは察しているだろうに、抵抗する気配はない。
浮かれていいかな。
こんないたいけな中学生の男の子に夢中になる日が来るなんて夢にも思ってなかったけど、今では和弘くんを襲う前の自分がどんな風に過ごしていたのかも思い出せないくらい和弘くんの事で頭がいっぱいだった。
「あ、あの、お風呂入ってないから、汚いです⋯⋯」
シャツのボタンを外していると、和弘くんが弱々しく抵抗した。
顔を真っ赤にして、ふるふると震える様は怯えてるハムスターみたいで可愛すぎた。
「和弘くんの体に汚いとこなんてないよ」
ありきたりなセリフを言って、和弘くんの抗議を却下する。
まさかこのセリフを僕が言う日が来るなんて。
これまで体を重ねた相手にこんな言葉を言った事はなかったし、こんな風に思った事もなかった。
事前にシャワーも浴びないなんて、汚くて抱けないって思ってた。
なのに和弘くんに対しては全くそんな感情が湧かない。
シャツを肌蹴てあらわになった胸に舌を這わせる。
ほんのり汗ばんでしっとりした肌に、いつになく興奮した。
そこからは性急に服を脱がせて全身を愛撫しながら舐めまわして。
そこはダメ、と抵抗する腕を封じて後孔も舐めて解した。
フェラをしながら後孔に指を挿入して、前立腺を刺激したら呆気なく精を放った。
吐き出すのは久し振りなのか、少し濃い精液をごくりと嚥下する。
和弘くんの息が整わないうちにさっさと服を脱ぎ捨てて、自分の屹立を解したばかりの後孔に宛がった。
「挿れるよ?」
耳元に口を寄せて訊くと、潤んだ瞳が見つめてくる。
了承の言葉はなかったけど、拒否の言葉もなかったのでそのままゆっくり腰を進める。
「ん、んんっ、は、あ」
ぬぷぬぷと亀頭が飲み込まれていく。
和弘くんの口からは吐息のような喘ぎが漏れた。
圧迫感があって少し苦しいのかも知れない。
けど、止めてあげられない。
公園で襲った時以来の、久し振りの和弘くんのナカはとても熱くてきつくて僕のモノに絡みついてくる。
すぐにでも爆ぜてしまいそうなくらい気持ち良かった。
体もだけど、気持ちが満たされてると余計に気持ち良く感じる。
満足感はこれまで体だけ重ねてきた相手からは得られないものだった。
これを知ってしまったら、もう手放せない。
ゆっくり全てをおさめると和弘くんが大きく息を吐いた。
体を倒してその唇を塞ぐ。
「は、んっ、んんっ」
唇を塞いだまま腰を揺すった。
和弘くんの腕が首に回される。
僕も和弘くんの背中に腕を回して、そのまま抱き起こした。
対面座位の体勢になって、和弘くんのナカを堪能する。
「やっ、あっ、あぁっん」
挿入が深くなって、和弘くんが耐えきれないといった感じで首を振る。
目の前の胸に舌を這わせて、硬くなってぷりっとした乳首を唇で挟んだ。
その刺激を受けて和弘くんのナカがキュッと締まる。
片方の乳首を指先で転がしながら、もう片方を口に含んで甘噛みする。
「ひっ、んっ、んぁっ」
刺激を与える度に和弘くんは可愛い声を上げて腰をビクビクと跳ねさせた。
このままずっと繋がっていたい。
ずっとひとつになっていたいと思った。
結局、和弘くんが気を失うまで貪ってしまった。
和弘くんが目を覚ましたのは、日付けも変わってからだった。
食事も摂らずに和弘くんを食い尽くしてしまった。
反省していたけど、目を覚ました和弘くんは僕を見ると嬉しそうにふにゃっと笑ってくれて、再び理性がはち切れそうになってしまう。
流石にこれ以上はダメだと、理性で欲望を抑え込んだ。
そんな僕の葛藤を知らない和弘くんは、お母さんが用意してくれていた夕食を一緒に食べようって言ってくれて、2人でかなり遅い夕食を摂った。
明日も平日だからゆっくりする訳にもいかなくて、僕はそのまま帰った。
和弘くんは少し寂しそうにしていたけど、週末はゆっくり過ごそうって言ったら安心したように微笑んでくれた。
まだ不安なのかも知れない。
けどその不安はこれからゆっくり解消していけばいい。
和弘くんとの今後を考えるだけで幸せな気持ちになれた。
何かと障害もあるだろうけど、この幸せは絶対に手離したくないって思った。
雅士に和弘くんとの関係がバレて軽く修羅場になるのはまた別の話。
終。
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