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キョウタが投じたシュートはリングに弾かれたかに思えたが、ボールはクルクルとその細い輪の上を回りゴールにストンと落ちた。
挿すか、挿さないかなんて、そんなの答えは決まっている。
「よっしゃ!!ほらイクオ」
喜びながらキョウタがイクオにボールを渡すとイクオは数回ボールを床について、ひざをわずかに曲げ、シュートを撃つ体勢になる。
俺は足音を消して背後に近寄り、静かにイクオの後頭部にネジを挿した。
イクオはぎょっとしてシュートを撃つのをやめて俺に迫る。
「何の冗談だヨ」
「見たんだ。お前のポケットの中身。このネジ、お前のだろ?」
俺の言葉をほんのわずかな時間を要してイクオは理解すると、次の瞬間には俺の胸ぐらをつかんで床に押し倒して鬼気迫る表情で叫んだ。
「外せよ!!いらねェんだよ!!こんなもん!!」
そう言って俺の左腕を掴んで強引に自分の頭に持っていこうとするので、俺は掴まれていない右手でイクオの横っ面を思いっきり殴って、言った。
「俺はこれからもイクオと友達でいたいと思ってる!今ならまだ間に合う。だから、黙ってつけてくれ……」
イクオはそれを聞いて顔をくしゃくしゃにして、泣いているような笑っているような表情をしたが、すぐに今度は何も言わずさっきよりもさらに強い力で俺の左腕を引っ張った。
「なんでわかんないんだよ!!イクオ!!」
俺は必死に叫んで腕に力を入れて抵抗するが、イクオは感情が抜け落ちたようにただ腕を引っ張る。
もう無理だ……そう思った時キョウタが俺の腕を掴んでいるイクオの腕をギュッと握り、イクオのズボンの右ポケットに手を突っ込んだ。
そのポケットの中身を確認したキョウタは最初驚いたような顔をした後、目を伏せ口を一文字に引き結んで哀しそうな表情をした。
それを見て、イクオは堰を切ったように言葉を怒涛の勢いで紡いだ。
「俺だってやりたくねェんだよこんなこと!でもやるしかねェんだ!もう罪悪感で眠れないのは嫌なンだよ!このネジが外れてやっと楽になれたのに!頼むよ!もう俺を楽にしてくれよ!!」
俺はイクオに気圧されて何もしゃべれなかった。全てを出し切ったイクオは放心状態で虚空を見つめていた。
キョウタはイクオの腕を放し、右手に持った封筒を床に置いた。そして、埋まりかけたイクオの頭のネジに向かって手を伸ばし、それに触れた。
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