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ネジは俺の時と同じようにぽろりと簡単に外れ、キョウタの手の中に収まった。
「これでいいんだろ?イクオ」
キョウタは手の中のネジを見下ろしながら言った。イクオは一瞬あっけにとられたが、すぐに掴んでいた俺のTシャツを離して立ち上がると、困惑した表情を浮かべながらキョウタと向き合った。
「これはやるよ。でも、これっきりだ」
キョウタはさっき床に置いたお年玉を拾ってイクオのズボンの右ポケットに突っ込んだ。イクオがますます表情を曇らせ、キョウタの顔色をうかがうと、キョウタは真剣な表情で真っ直ぐにイクオの目を見て言った。
「お前が苦しいのはよく分かった。これは、俺が持っといてやる。気持ちが変わったら取りに来い」
そう言い終わると、その手に持ったネジを自分の頭に持っていって挿した。
「あ……」
キョウタお前、それでいいのか?という俺の言葉は5時を知らせる夕焼け小焼けのチャイムにかき消されて、行き場を失った。
夕焼け小焼けの寂しげなメロディーが響く中、イクオはステージの上のスマホをひっつかみ、逃げるように帰っていった。その姿を見届けた後、キョウタは俺に背中を向けて独り言のように言った。
「これでよかったんだよな……」
俺はその自問自答するようなキョウタの問いかけに答えることはせず、イクオが出ていった体育館の玄関をぼんやりと見ていた。
その日の夜、俺はベッドに横になって今日の出来事を振り返っていた。タラレバは好きじゃないけれど、どうしてももっと別のやり方があったんじゃないかと考えてしまう。
ネジが落ちたのがキョウタの足元だったのは、もしかしたらイクオがキョウタに止めてほしかったからかもしれない。けど、イクオは罪悪感で苦しんでいた。
俺達は本当にイクオのことを考えたら、何をすべきだったんだろう……。
俺はその答えを出すことなく眠りの世界に落ちていった。
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