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目の前の凄惨な光景と自分を抱えている男への恐怖で、身体がカタカタと震え悪い想像ばかりが頭をよぎる。
小さな戦場に出たことは何度かあるけれど、常に本陣で待機する私にとって、目の前で人が殺されるのを見るのはこれが初めてだった。
気がつくと戦場からはかなり離れ、貴族の別荘とおぼしき山荘の前に着地していた。
男が私を横抱きにしたままフワリと跳んでドラゴンから降りる。どういうわけか着地の衝撃が全く無い。
地面に下ろしてもらえたけれど脚が震えて上手く立てず、男の黒い騎士服にしがみついてしまった。
「大丈夫か?」
「は、はいなんとか。申し訳ありません」
なんとか自分自身に気合を入れて脚に力を入れる。
脇の下を支えられ、しがみついていた手の力を抜いてずいぶん高い位置にある男の顔を見上げた。
私をジッと見つめる男は、真っ黒のツヤツヤした髪に銀色の瞳の、恐ろしいほど整った容貌をしている。
恐ろしいほどというか、本当に恐ろしい……悪魔のような妖しい美しさを持った年若い青年だった。表情が険しくて、なのに薄笑いを浮かべた口元に恐怖心をさらに煽られる。
私は次期皇主としての矜持でなんとか震えながらも立ち続けたけれど、そこにいるだけで全ての生物をひれ伏させるような、そら恐ろしい威圧感というか雰囲気がその男にはあった。
男から漏れ出る禍々しい魔力と殺気がそう思わせるのかもしれないけれど、恐怖で混乱した私には判断がつかない。
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