蒼い恋慕

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4月 風埃舞う暖かな日 窓から差し込む光に反射してゆらゆら光る微かな埃の中。 私はあなたをはじめて見た。 メガネ越しに、メガネを掛けたあなたが見えた。 挨拶は相手より先にした方が良い。 第一印象を大切にしなければ。 私はあなたの前に立ち、背筋を伸ばして微笑んだ。 「はじめまして。佐伯です。」 あなたは慌てて立ち上がった。 「はじめまして。豊田です。」 「どうぞよろしくお願いします。」 ぺこりと頭を下げる私に続いて、あなたも頭を下げた。 「こちらこそよろしく。」 挨拶をして私たちは別れた。 私の日常は変わらない。 何も変わらない。 でも、毎日楽しく話す仲間がいる、家族がいる、夢中になれることがある。 それで良い。 毎日つつがなく生活を送れていることが幸せだという事を、私が一番よくわかっている。 ふいに白い花びらが私の前に舞い降りた。 私の頭上に満開の桜がたくさん咲いていた。 新入学生さんたち、おめでとう。 心の中で唱えてみた。 桜が咲いていても私には関係ない。 お花見には行くけれど、毎回周りの空気に同化して終わる。 お花見は疲れる。 桜が咲いていても、私はただ繰り返す毎日を、懸命に生きているだけ。 それで良い。 風埃が立つ。 私は目を閉じる。 メガネが埃から守ってくれるけど、目の中には何も入れたくないのだ。
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