蒼い恋慕

12/27
前へ
/27ページ
次へ
3月 雪がちらついた日 3月は雪が降る。 山に降り積もった雪が風に乗って。 この街に、私の肩に、ひらひらと舞い降りる。 あなたは私と向き合ったまま、ずっと俯いていた。 項垂れたままのあなたの腕を強く握ってみる。 元気になあれ。 落ち込まないで。 あなたは最高な人。 高い鼻筋も。 綺麗な指も。 おしゃれな靴も。 あなたの考えも。 声も。 ひとつ、ひとつ。 私は最高の笑顔であなたを送り出す。 さようなら。 私の事を忘れないでね、なあんて。 ・・・ わたしはあなたの事を。 ・・・・・ずっとお慕いしておりました。 私の心臓の音が大きく響いた。 体中に電流が走る。 あなたはそっと私の頬を指で撫でると、そのまま背を向けて去っていった。 もちろん、私を振り向かないままで。 私も背を向け歩き出す。 まえをみ、てあ・・・ まだぬくもりが残る撫でられた頬に、そっと自分の指を置いてみる。 その指で あなたの指に触れたかった。 もっと あなたの近くに居たかった。 ふといつもしていたように、私は右側を見上げてみた。 優しい目はもうない。 掛けてくれる優しい声も無い。 背の高いあなたをもう見ることはできない。 こんなもんだよね。 こんなもの。 はらはらと落ちる白い雪が、私のまつげにそっと降りた。 ほろり これは涙ではなく、雪。 はらはらと落ちる雪。 そう 私はまた前を見るだけ。 前を見つめて進んでゆくだけだ。 背筋を伸ばし、足取り軽く歩いてみた。 意外としっかり歩けたことに自分で驚いた。 前を向く。 歩いていく。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加