蒼い恋慕

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埃なのか花粉なのか。 今日から一年、ここに居なければならない。 いつになったら落ち着くんだろうか。 は~。 鼻をかむ。ティッシュを足元のごみ箱に落とす。 段ボールから荷物を出そうと重い腰を立ち上げようとしたその時、 「はじめまして。佐伯です。」 頭上から声がしたため、反射神経で慌てて立ち上がった。 「はじめまして。豊田です。」 メガネを掛けたその女性は目を細めてにっこり笑った。 「どうぞよろしくお願いします。」 「こちらこそよろしく。」 返すとそのまま踵を返しその女性は姿勢よく歩いて行った。 びっくりした・・・。 礼儀正しい子がいるもんだな。 人の笑顔を久しぶりに見たような気もする。 あんなに目を細めてにっこり笑って。モテるだろう。 いい加減、どこかの場所に落ち着きたい。 まだ若いから、それがまだ叶わない事は解っている。 でも、ああ、ここに来てよかったかもしれない。 と笑顔に会った時、そう思った。
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