0人が本棚に入れています
本棚に追加
雪。
こんな時期に。
きっと山に積もった雪が流れてくるんだろう。
「豊田さん。」
佐伯さんに呼び止められた。
今、この場所には二人しかいない。
佐伯さんの方へ居直すが、どうすればいいのか、何を言えばいいのか分からず、ずっと俯くしかなかった。
その時、左腕が強く掴まれた。
彼女は困った時に見せる眉を下げた表情で、じっと顔をのぞき込んでいた。
ありがとう。
心にともしびをつけてくれたあなたは最高な人。
高い鼻筋も。
綺麗な指も。
おしゃれな靴も。
あなたの笑顔も。
声も。
ひとつ、ひとつ。
あなたの笑顔でたくさんの人がきっと励まされる。
あなたの笑顔でたくさんの人がきっと癒される。
私はあなたの事を。
・・・・・ずっとお慕いしておりました。
そう聞こえた気がした。
気付けばそっと人差し指で佐伯さんの頬を撫でた。
触りたい、抱きしめたい。
けれど無理だ。さようなら。
そのまま背を向けた。
佐伯さん、気分を悪くしただろう。
でも、反省する気になれなかった。
白く痛い思いが込み上げる
はらはらと落ちる白い雪が、まつげにそっと降りた。
ほろり
これは涙ではなく、雪。
はらはらと落ちる雪。
最初のコメントを投稿しよう!