蒼い恋慕

3/27
前へ
/27ページ
次へ
6月 たくさん雨が降っている日 おしゃれ雨靴の中にじんわりと水がにじむ。 靴下が濡れるのは嫌だけど、梅雨は好き。 紫陽花は庭先で元気に咲いている。 雨に濡れる綺麗な水色。 初めてあなたとお話しをした。 たまたま、時間的に二人きりだった。 真剣に話を聞くあなた。 あなたの話に目を見開く私。 こんな考えも有るのか、と驚きあなたも意外と素直な私に驚いたようだ。 時には身体を近づけたり、ジェスチャーを交えてみたり。 今はきっと、朗らかな時間なんだろうな、と思った。 帰り道にふと気が付いた。 ああそうか・・・あなたに嫌われてはいないんだ。 まあ、どっちでも良いけど、うん、良かったかもしれない。 そして、私の存在にも気づいていたんだ。 いや、当たり前なんだけど、名前すら憶えてくれていないかと思っていたから。 ほっと息をつく。 やっぱり普通の人だったんだ。 良かった・・・。 特にときめく事も無く、お互い。 ふと今日の光景が蘇る。 席を立つ私。 「さようなら、また明日。」 彼も席を立った。 「さようなら、そうですね、また明日。」 お互い微笑んで、背を向けて別れた。 私は前を見る。 前だけを見る、私は。 代り映えしない日。 それでも良い。 紺色の傘から雨がパタパタと弾け落ちる。 弾け落ちた雨粒はまた紫陽花に降りかかる。 人と少しでも心を通わせることが出来る事は、きっと素敵なことだ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加