蒼い恋慕

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9月 曇りが続く日 こんなに過ごしやすい9月は久しぶり。 それでも秋刀魚がスーパーで並ぶようになったなと嬉しくなる秋。 暑さが無く、おいしいものが食べられる。 ずっとこんな9月なら良いのに。 あなたは私の右側の一つ挟んだ机から話しかけてきた。 「こんにちは。」 まるで8月に有った冷たさを微塵と感じさせず、微笑んでいた。 「こんにちは。」 私も答える。 でもうまく笑えない。 何故だろう。 立ち去りたいのに、足が棒のようになっていて動けない。 腰も上がらない。 「この前はありがとうございます。」 何のことやら。 私はあなたの方を向けない。 そのままあなたは私の視界から消えてしまった。 その場に私だけが取り残された。 そして、抉られるような痛みだけが胸に残った。 私一人で勝手に冷たさに傷ついていた。 ばかみたい。 私一人で何をやっているんだろう。 私は何に振り回されているんだろう。 さっきまで上がらなかった腰はスムーズにあがり、棒のようだった足は何ともなく動かすことが出来た。 疲れた。 そしてなんだか虚しさが半紙に広がった墨汁のようにどんどん広がっていった。 曇りが続くと、気分が塞がるのだろうか。 私に残る胸の痛みは、 私の胸に突き刺さった棘は、 曇り空が原因なのだろうか。 夕食は秋刀魚。 内臓を大根おろしと一緒に食べる。 美味しいと思うのに、味がしない。 なんでだろう。
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