操と紗奈

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 3歳のときから監禁され、玄関の鍵を開ける知恵も、大声をあげて助けを求めるという発想もなかったきららは、警察に発見されなければいずれ衰弱死していただろう。5歳の女の子はなんとか誰かに見つけてもらおうと、小さな窓の隙間からSOSを発信していたのだ。 「家の中は自由に歩き回れていたって書いてあるけど、犯人が死んでしまったことは理解してたのかしらね。虐待の跡もなかったらしいし、ちゃんと育てられていたなら、本当のお母さんみたいに思ってた人の遺体と一緒にいたことがトラウマにならないといいわね」  すぐそこにいたのに何もしてあげられなかった幼女を想い、操は深く長いため息をついた。  1年半も住んでいて、誰にも気づいてもらえなかったきらら。その姿をイメージしようとした紗奈の脳裏には、彼女が描いた女の子の絵が浮かんだ。  2回目に拾った折り紙も、女の子と女性の絵だった。階段らしき段々の下に、横になって目を閉じた女性。その段々の上には、バンザイするように両手を上げた女の子が描いてあった。その顔は、満面の笑顔だった。  ロフトから転落死したという誘拐犯(おかあさん)。彼女が落ちた時、きららはどこで何をしていたのだろう。 (……まさか、ね)  週刊誌には荒い白黒写真で隣のタワーマンションが載っている。ニュース映像でも何度も見たそれがすぐ窓の外にあることを不思議に感じながら、紗奈はこたつの上のみかんに手を伸ばした。 【了】
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