絢子

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(子どもなんて、もともと好きじゃなかったのよ……)  子どもを欲しがっていたのも、タワーマンションに住みたがったのも、1年半前に離婚した夫の方だ。彼が出て行ったこの部屋で、一人で子どもを育てても何の意味もない。  絢子はこめかみを指で押さえてため息をつき、玄関に置いたコンビニエンスストアの袋を取ってリビングに向かった。  ローンの残りは元夫と折半で払わねばならず、生活は決して潤っていない。自炊した方が節約になるのは分かっていても、彼がいた頃のように料理をがんばる気になれない。結婚した時に買い揃えたお洒落な食器類はサイドボードに入れっぱなしで、最近は買ってきた惣菜や弁当をパックから直接食べている。  きららの服を着替えさせるのも面倒で、一日中パジャマでいることに何も言う気が起きなくなった。  明るいリビングに入ると、手を洗って待っているはずの幼児の姿がない。ローテーブルの上には、篭に入ったみかんの脇に、開いた皮がいくつも置きっぱなしになっている。せめて昼間に食べたもののゴミくらい捨てられないのかと苛立ちが募った。  外はもうすっかり暗く、鏡のようになった大きな窓ガラスに、花柄のパジャマが映っている。窓辺まで行って振り向くと、ロフトにきららが座っているのが見えた。 (あんなところに……)
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