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絢子の部屋は最上階ではないが、段々になったマンションの角部屋の特権で、リビングの天井が高くロフトが付いている。今では掃除するのも億劫で埃が溜まるばかりになっているそこには、手すりの低い急な階段でしか上がれない。
危ないから勝手に上がるなと、きららには何度も言っているのに。
(ほんっとに言うこと聞かないんだから……)
下から怒鳴って、驚かせるのも恐い。絢子は眉間にしわを寄せて階段を上り、ロフトに上半身を出して彼女を呼んだ。
「きららちゃん、下りなさい。ここに上ったらダメって言ってるでしょう? どうしていちいちダメって言われたことばかりするの? お母さんを困らせて、そんなに楽しいの?」
そう言い募ると、きららが不満そうな顔で歩いて来る。またこの顔だ、とげんなりした。
この程度の高さからでも、落ちたらただでは済まない。下を見ると角の尖ったローテーブルが目に入り、きららが転落したらと想像して鳥肌が立った。
「さあ、ゆっくりでいいから」
絢子が手を伸ばして促すと、目の前まで来たきららがにっこり笑った。
(え……っ?)
笑顔なんて久しぶりに見た。ロフトで何かいい物でも見つけたのだろうか。いつもそうやってニコニコしていれば可愛げがあるのに、そう思いつつ、楽しげな笑顔につられて口角が上がる。
目を細めた絢子に、きららがだっこをせがむように両手を突き出した。
もみじのように小さなその手が意外に力強いことを、そのとき絢子は初めて知った。
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