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 (みさお)が竹ぼうきとちりとりを持ってマンションを出ると、前の道に絵本が落ちていた。(かど)がひしゃげた薄い絵本は、開いた状態でアスファルトに伏せられている。  通園途中のバッグから滑り落ちたのだろうかと首を傾げていたら、向かいのタワーマンションの芝生にも別の絵本が落ちているのが見えた。バッグから落ちたのなら、柵の向こうまで飛んでいくことはないだろう。 (もしかして、上から落ちてきたのかしら……?)  思わず見上げると、45年ものの首が悲鳴を上げた。 「あいたたた……」  首の後ろを手のひらで温め、うつむいて痛みをやり過ごす。そのまま少し膝をかがめて、操は取り落とした竹ぼうきとちりとりと一緒に、足元の絵本を拾い上げた。  わりと新しそうな、幼児向けの絵本だ。持ち主の名前は書いていない。 (落としたんだとしたら、危ないわねぇ……)  操は7階建てのマンションの管理人をしている。絵本が落ちていたのは操のマンションの入口に面した一方通行の道路で、住人はどこへ行くにもこの道を通る。その向こうにそびえ立つのは、30階建ての高級マンションだ。  高層階から落ちてきた物がもしも人に当たったら、痛いだけでは済まないだろう。
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