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広い敷地を柵に沿ってぐるりと回り込めば、タワーマンションに常駐の管理人がいることは知っている。お隣に勤める同業者とはいえ、いや、だからこそ、操はスーツを着込みホテルマンのような顔をして「コンシェルジュ」とやらを名乗る彼が好きになれない。
絵本が隣のマンションから落ちたと決まったわけではないし、落としものとして届けるのも苦情を言うのも早計な気がした。
操は首を気遣いながら、ゆっくりと顔を上向けた。タワーマンションでは景観を損ねるため洗濯物を外に干すことが禁止されているらしく、どの窓もツンとすました優等生顔に見える。
(こんな晴れた日にお天道様の下に洗濯物を干さないなんて、ちゃんちゃらおかしいわね)
絵本をどうするかは後で考えることにして、操はマンション前の道をさっと掃除すると、管理人室を兼ねる101号室の自宅に戻った。
コピー用紙を取り出し、「上からの落としものに注意」と見出しを書く。エレベーター横の掲示板に張り、住民には注意喚起することにした。
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