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紗奈
目の前に紙が落ちてきた。青空を背景に、それはひらひらと紅白を交互に見せながら紗奈の足元に着地する。アスファルトを赤く切り取る正方形は、一枚の折り紙だった。
紗奈は眩しい朝日に目を細め、隣にそびえるタワーマンションを見上げた。
高い柵の向こうに、ズラッと縦に並ぶ同じ形の窓。てっぺんに近いその一つから、白く細い棒が突き出している。と、その先端から何かが離れ、ひらひらと舞いながら落下し始めた。口を開けて見ていたら、その紙片は秋の風に吹かれ、紗奈のだいぶ後ろの方に飛ばされて行ってしまった。
どうやら誰かが上階の窓から、折り紙を投下しているらしい。
紗奈は足元の赤い折り紙を拾い上げ、白い面にクレヨンで絵が描いてあることに気づいた。
(お母さんと女の子、かな……)
スカートをはいた少女が、女性と手を繋いでいる絵だった。といっても、丸い頭に三角の体がついているから少女だと分かる程度の画力だ。三角形からは棒の手足が飛び出しているし、描いたのはたぶん幼児だろう。女の子の目には涙の雫が書き込まれていて、女性の顔は明らかに怒っている。
(叱られちゃったんだろうな)
思わず口の端が上がる。紗奈も小さい頃は、叱られるとふてくされて、鬼婆化した母親の絵を描くことで鬱憤を晴らしたりしたものだ。
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