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実りの秋になって猿は蟹の家にやって来て満足げに柿の木を見上げる蟹に言った。
「いやあ、見事なもんだ。よく育てたね」
蟹は大層喜んで、「へへへ、褒めてくれてありがとう」
「尤も、ここの土地は肥えてるから誰が育てても柿の実はなるけどね」
「あ、ああ・・・」と蟹は花がしぼむように糠喜びになる。
「それにつけても君はどうも大事なところが抜けてるねえ」
「えっ?」
「君、どうやって柿の実を取って食べるつもりだい?」
そう言われて蟹は初めて自分の落ち度に気づき、「あっ、そう言えば、僕、木に登れないんだ」
「ハッハッハ!」と猿は見るからに馬鹿にして笑った。「折角の鋏が宝の持ち腐れときたもんだ」
蟹は自分の鋏を恨めしそうに見て、「はあ」と溜息をつく。
「全く間抜けだねえ。君は。そこへ行くと僕は柿の種を君に育てさせておいて柿の実が一杯なった所で、こうしてやって来て、そして」と猿は言うと、柿の木に登って行き、柿の実を取っては食べ、「こうして登って食べるのさ。どうだい、思惑通り事が運んだって訳さ!」
柿の実を食べる猿をどうすることも出来ず、指ならぬ鋏を銜えて見ながら自分の愚鈍さを呪った末、大損したと項垂れる蟹に、猿はまだ青くて熟していない実だけ残して木から降りて来ると、笑いながら言った。
「あの青いのが赤くなったら、また来るよ」
猿の賢さにに参ったと項垂れた儘になってしまい何も言い返すことが出来ない蟹を残して猿は片腹痛いやと言いながら去って行った。
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