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「これ?芳名帳だよ」
「ホウメイチョウ?」
「葬式の時に書くやつだろ?香典置くときに」
「あれか・・・誰のですか?」
「誰って、山形さんだよ」
「山形さんて・・・普通、故人の家に置かないよな」
「だから、びっくりしてんだよ、清子さん、そんな人じゃないんだけどなあ」
佐向の言う、清子とは山形啓二郎の妹であった。
「清子さんとは、連絡は取れますか?」
「ああ、取ってみるよ、びっくりするだろうな・・・」
倉庫内に携帯電話の着信音が鳴り響く、心当たりがあるのか、徳利は顔をしかめながらスーツのポケットから携帯電話を取り出した。
「はい・・・はい、わかりました」
「どうした?」
「防犯課の花井課長から、至急署に戻れって・・・南、後頼めるか?」
「元々お前らは、この事件の張本人みたいなもんだろ、もとの職務に戻れよ、もう終わったんだよ」
もはや、反論する怒りもない、南の言うとおりだ。
もう終わったんだ
全て終わり。
香原署に戻るまで、徳利と大瀬は終始無言であった。
お互いに、違うことを考えていた。
車が署の入口に差し掛かった時、徳利は異様な光景に気が付いた。
いつも見慣れた、玄関の灯りが見えない。正確にいうと、多数の黒い影が灯りを塞いでしまっていた。
「何だよ、まさか・・・・」
ライトとカメラを持った男達と、そのカメラに向かって語り続けるリポーター。同じ組み合わせのマスコミ達が香原署に大挙して埋め尽くしていた。
徳利は一旦車を止めたが、その様子を見て裏口の駐車場にハンドルを切ったが、返ってその動きがマスコミの目に止まってしまった。
車の正面にはライトが点いたカメラマンに阻まれ、横のガラス越しには何人ものリポーター達が何かを喋りながら徳利達にマイクを差し出していた。
すみません、警察の方ですか?
山田巡査をご存じですか?
ガラス越しに曇って聞こえる声。
徳利達は呆気にとられながらも、大きなクラクションを鳴らしながら前に進んだ。
大瀬は顔を下に向き、徳利はライトを手で遮りながら目を凝らした。
車が裏口に着くと、大瀬は素早く降り、徳利への当てつけのように大きな音を立ててドアを閉めた。
やりきれない気持ちが、込み上げてくる。
俺が、何をした?
何でこんなことに
一年前と一緒だ
ただ職務を全うしただけなのに、たった三日間で全てが変わってしまった。
どんなに力んでも、どんなにもがいても、肩透かしに空回りして、虚しさが残る。
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