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「うわ、何これ?」
Aは素足で靴を履いていた。左足を脱がし、右足を脱がし終えたところで、靴の裏側が赤く染まっていることに気が付いた。
「靴擦れかな?」
「足調べてみろよ、どこか擦れてるだろ」
大瀬がAの足首を見たところ、くるぶしの下の皮が剥がれ血で赤く染まっていた。
「ここですね・・・」
「可哀想に、随分と痛かったんじゃない?」
徳利も一緒にかがみ、Aの足首を調べた。
「おかしいな・・・」
「何が?」
「いや、こんなに擦れてるなら、くるぶしも赤くなってると思って」
「靴が合わなかったんじゃないんですか?拾った靴なんですよ、やっぱり」
「だから、靴が合わないんだったら足が突起してるところが一番傷つくだろ、親指の付け根とか、くるぶしとか・・・」
「確かにそうね」
「この箇所はくるぶしの下だから、むしろ傷つきにくいだろ」
「じゃあ・・・靴がおかしいんですかね?」
靴が・・・
徳利はそうつぶやきながら、右足の靴の中を覗き込んだ。
赤く染まった裏地を触ると下の方に固い感触がある。
「何かあるぞ・・・・」
徳利は裏地が切られている部分を見つけ、固い(何か)を切り口まで誘導させ、引っ張り出した。
徳利がつまんだ物は、ギザギザした細長い金属であった。その先をたどると金属は平らになり、リング伝いでプラスチックのタグがついていた。
「鍵・・・ですね?」
「タグになんか書いてあるぞ」
大江スミ 寺田1-369
「名前と住所?」
「寺田って、ここから車で二十分くらいのところね」
「これ、君の住んでいる家の住所?」
徳利がAに問いかけたが、やはり応答がない。
会議室には、三人の無気力の溜息の後に包まれる静寂が長く続いていた。
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