五、不協和音

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徳利が現場に戻ると、県警の捜査員と刑事課の南が既に検証を始めていた。 倉庫はトタンでできた二十畳ほどの広さの建物であった。 中に灯りがないため、鑑識課が用意した巨大な三脚電灯を数台で全体を照らしている。 倉庫内は母屋方からの入口の他に、左手の壁側に大きな扉があったが、固く閉ざされている。右手には壁伝いに棚が設けられ、小さなダンボールや書物が僅かに置かれていた。 そして天井には、巨大な布ようなものが何列にも連なって吊るされていた。 「徳利」 徳利が吊るされた布に見とれていると、刑事課の南が山田が遺棄されていた場所から声を掛けた。 「もう来てたのか」 「今回ばかりはこっちの出番だからな」 ただでさえ、遺棄現場は重苦しい空気になるが、今回は異様な空気を感じるほどに静かに動いていた。それは同僚の死という現実も相まっていることを物語っていた。 「大瀬は?」 「ここには来たくないそうだ」 「だろうな・・・お前は?」 「え?」 「大丈夫なのかよ、同じ交番だったんだろ?」 「俺は、別に・・・・」 「冷たい奴だな・・・ま、そうでもないとこの仕事はできないけどな」 「で、どうなんだよ?」 「どうやらここで、銃口を口にくわえて引き金を引いたらしい。運び込まれた形跡は無い、自殺だよ」 「馬鹿な・・・どうしてこんな」 「そりゃあ、同僚を撃って、大瀬を人質に取った自責の念だろ」 「だから、どうしてそんな事したんだってことだよ」 「それは、お前らが一番よく知ってるだろ?」 どういう意味だ? 徳利がそう聞こうとした瞬間、母屋の方から徳利巡査長という名前が響いた。 徳利がその方を見ると、巡査が入口に立って返事を待っていた。 「どうした?」 「三木警部から、家主さんと屋内の確認をしてほしいとのことで、来ていただきました」 よく見ると、佐向が巡査の後ろに立っていた。 徳利は思わず、その様子を見て小さくお辞儀をした。 「よろしくお願いします」 「えっと、どこ見たらいいですかね?」 「ここは今、捜査中なので、二階からお願いします」 徳利この時、初めて二階に上がった。 二階は階段上がってすぐ、数メートルの板間の廊下があり、左側に襖が続いている。 上がることを躊躇した暗闇の中を、南はためらいもなく奥に進み、襖を開けて雨戸を手際よく開けた。 二階は八畳の部屋が一間になっていた。通りに向かって窓ガラスが設けられ、窓のすぐ下には小さな座卓が置かれていた。窓の横には大きな押し入れの襖が四枚閉ざされている。
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