五、不協和音

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倉庫にはまだ数名の捜査員が残っていたが、山田の遺体は既に運ばれ、跡にはブルーシートで覆われていた。 佐向は出来るだけシート見ないように、不自然に顔を背けている。 「すみませんね、ご足労おかけします」 「いやあ、こんなこと初めてで・・・」 佐向はそう言いながら、倉庫の確認を始めた。 「早速ですが佐向さん、あれなんですかね?」 やはり南も気になっていたのか、手を指した先には吊るされた布があった。 「ああ、これね、これは藍布だよ」 「アイヌノ?」 「この地域の名産品だよ、藍色に染めて、ここで干してんだよ」 「山形さんの倉庫で?」 「いや、山形さんの家族からは好きに使ってもいいって言われてるから、暗所だし、物もでかいから丁度いいと思って・・・まずいの?」 「いや、別に・・・」 「これって、法律違反じゃないよね?」 急に不安になったのか、佐向は目を丸くしながら徳利と南を何回も見返した。 「大丈夫ですよ、問題ないですから」 佐向は小さく息を吐くと、今度は壁際に備わった棚に向かって歩き始め、つられて徳利と南も棚に注目した。 棚は二メートルほどの大きな木の枠で、上下の二段に分かれていた。 下の段は何かがシートに掛けられているが、陰になっていてよく見えない。 「下のシートは、何ですか?」 「ああ、これは畑で使うもんだよ、暗くて見えないか・・・」 佐向はそう言うと、棚の反対側の壁に向かって歩き出した。 端に立て掛けてあった脚立を壁の真ん中に移動すると、佐向は手慣れた様子で脚立を登り始めた。徳利達には暗くてよく見えなかったが、やがて鈍い音と共に光が差し込んだ。 「これなら、よく見えるだろう」 徳利と南は日差しを手で遮りながら、後ろを振り返り棚の中身を確認した。 佐向の施しもあって、棚の奥まで目視することができるようになった。 棚の二段目は、確認するまでもなかった。 農業道具やホースなどが乱雑に置かれていたが、どれも埃がこびり付き、道具の色をくすませる程であった。 徳利達が棚に目を向けている間に佐向が棚に戻り、さっきまで話していた下段のシートを、ぶっきらぼうに剥がしていった。 「ほらこれ、こんな物盗るやついないだろ」 「はあ、上の段はどうです?」 「上の段、大丈夫だと思うけどなあ・・・あれ?」 佐向は棚から、一冊の本を取り出した。 「こんなものが・・・何でここに」 「何ですか、それ?」
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