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幾分、車を飛ばしたかいもあって、大瀬の車は予想よりも早く香原署に到着した。
大瀬は車を降りるなり、駆け足で会議室に向かった。
「遅くなりました」
息を切らしながら、会議室の扉を開けた先には、徳利と花井が腕を組みながら立ち尽くしていた。
「ありがとな、田所さん、元気だったか?」
「はい、少し瘦せてましたけど、元気そうでしたよ」
「そうか・・・」
「あの、荒木さんは?」
「荒木君は書類を取りに行ってもらってるよ、来たら始めよう」
荒木が戻ってきたと同時に、花井は残している仕事をこなすべく、後は徳利達に任せ退室した。
Aの取り調べは、そのまま会議室で行うこととなった。
今の時点で、Aは犯罪を犯しているわけではない。したがって被疑者が入室するような取調室で行うと、後々厄介なことになるかもしれない。
これもすべて花井の施しであった。
まず、荒木がAに対して一言確認をした後に、Aの衣類のポケットを調べる。そして所持品をすべて机に並べて確認をする。
所持品は数百円の小銭と口紅であった。
「所持品はこれだけか・・・」
「ほんと、身分がわかる物が一つもないのね」
「この口紅、どこのメーカーか大瀬さんわかる?」
「え?いや、どこですかね、これ・・・化粧品は疎いからなあ・・・」
二人の会話をよそに、徳利はじっくりとAを観察した。
Aは放心状態のまま、相変わらず床の一点を見つめている。
ブロンドのベリーショートに真っ白な肌、切れ長の二重瞼にどす黒い唇・・・・
どうやら、所持品の口紅を既に塗っているようだ。
病院で着替えたTシャツとは似合わない、七分丈のピンクのパンツを履いていた。
徳利の視線はAの足元に移動していく。
年頃の女性には少し違和感のある、男性用のスニーカーを履いていた。
徳利はどうしても、その靴が気になっていた。
汚れ一つもない真っ新なものだが、新調したというより、スーパーの片隅で売られているようなチープなものに見える。
「・・・靴」
「え?」
「靴だよ、調べてくれないか?」
「靴ですか?なんか変ですか?」
「お前、この年頃にこんなスニーカー履いてたか?」
大瀬は徳利の横に並び、Aの足元を観察した。
「いや、でもどっかから拾ってきたんじゃないんですかね?」
「確かに、不自然に見えるわね、大瀬さん、脱がしてみましょう」
多少抵抗したものの、先輩である荒木の指示には逆らえない。大瀬と荒木はかがみこみ、荒木は足を抑え、大瀬は靴に手をかけた。
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