一、少女A

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幾分、車を飛ばしたかいもあって、大瀬の車は予想よりも早く香原署に到着した。 大瀬は車を降りるなり、駆け足で会議室に向かった。 「遅くなりました」 息を切らしながら、会議室の扉を開けた先には、徳利と花井が腕を組みながら立ち尽くしていた。 「ありがとな、田所さん、元気だったか?」 「はい、少し瘦せてましたけど、元気そうでしたよ」 「そうか・・・」 「あの、荒木さんは?」 「荒木君は書類を取りに行ってもらってるよ、来たら始めよう」 荒木が戻ってきたと同時に、花井は残している仕事をこなすべく、後は徳利達に任せ退室した。 Aの取り調べは、そのまま会議室で行うこととなった。 今の時点で、Aは犯罪を犯しているわけではない。したがって被疑者が入室するような取調室で行うと、後々厄介なことになるかもしれない。 これもすべて花井の施しであった。 まず、荒木がAに対して一言確認をした後に、Aの衣類のポケットを調べる。そして所持品をすべて机に並べて確認をする。 所持品は数百円の小銭と口紅であった。 「所持品はこれだけか・・・」 「ほんと、身分がわかる物が一つもないのね」 「この口紅、どこのメーカーか大瀬さんわかる?」 「え?いや、どこですかね、これ・・・化粧品は疎いからなあ・・・」 二人の会話をよそに、徳利はじっくりとAを観察した。 Aは放心状態のまま、相変わらず床の一点を見つめている。 ブロンドのベリーショートに真っ白な肌、切れ長の二重瞼にどす黒い唇・・・・ どうやら、所持品の口紅を既に塗っているようだ。 病院で着替えたTシャツとは似合わない、七分丈のピンクのパンツを履いていた。 徳利の視線はAの足元に移動していく。 年頃の女性には少し違和感のある、男性用のスニーカーを履いていた。 徳利はどうしても、その靴が気になっていた。 汚れ一つもない真っ新なものだが、新調したというより、スーパーの片隅で売られているようなチープなものに見える。 「・・・靴」 「え?」 「靴だよ、調べてくれないか?」 「靴ですか?なんか変ですか?」 「お前、この年頃にこんなスニーカー履いてたか?」 大瀬は徳利の横に並び、Aの足元を観察した。 「いや、でもどっかから拾ってきたんじゃないんですかね?」 「確かに、不自然に見えるわね、大瀬さん、脱がしてみましょう」 多少抵抗したものの、先輩である荒木の指示には逆らえない。大瀬と荒木はかがみこみ、荒木は足を抑え、大瀬は靴に手をかけた。
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