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第一話 ここどこ?
気が付くと私は、ポリタンクを抱えて波間をプカプカと漂っていた。
見渡す限りの海。
周りには何も無い。
「あ、そうか」
思い出した。
「飛行機が墜落したんだった」
私は成田から出発してホノルルに向かう飛行機に乗っていた。
しかし、それが突然墜落。
原因は分からない。
機内放送ではしきりに『大丈夫です』なんて言っていたが、結局凄い衝撃と炎に包まれ
「こりゃ死んだな」
と思わざるを得ない状況になった。
でも、私は今こうして生きている。
しかも無傷だ。
ここがいわゆる死後の世界でないとすれば、これは奇跡以外の何物でもない。
しかしどうやってこのポリタンクにしがみついたんだろうか、全く覚えていない。
他の人達の姿も、浮遊物も何も見当たらない。
「私、飛ばされちゃったのかな」
飛行機は海面に衝突し、機体は粉々に砕け散ったのだろう。
そして、その機体の一部と伴に、私は遠くに弾き飛ばされ、奇跡的に命があった。
そう考えるのが自然かも知れない。
ここが死後の世界でないとすればの話だが……くどいけど。
「しかし、ここどこ?」
飛行機が飛び立ってから三時間位経っていたから、太平洋のど真ん中であることは間違いない。
だとすると、ここで誰かに発見される可能性は皆無に等しい。
「どうしよう」
急に心細くなってきた。
なにせ、所持品は着ている服と、このポリタンクだけ。
水も食料もない。
足の下は深淵の海。
「怖い!」
その時だった。
ゆっくりと上下する海面の向こうに小さな点が見えた。
「船? 陸? 違う、岩だ!」
波間の向こうに見えたのは小さな岩だった。
距離は五百メートル位だろうか。
「よし、泳ご」
私はポリタンクにしがみつきながら、足をバタつかせ、その『岩』に向かって泳ぎ始めた。
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