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第十六話 帰れない
翌日、
私は昼食を摂りながらマリーさんに訊いた。
「この船、どこに向かってるんですか」
「横須賀よ」
「ホントですか。日本に向かってるんですね」
「ええ」
「私、帰れるんですね」
するとマリーさんの表情が曇った。
「真理。それは判らないの」
「判らない? どう言う事ですか」
「タイムディストーションの事は昨日話したわよね」
「はい」
「そしてそれは公表れていないと言う事も」
「はい」
「あなたをおウチに返すと言う事は、その事実を公表してしまうという事なの」
「だから私を返せないと?」
「その通りよ」
「そんな。せっかく私生きているのに帰れないって、それあんまりじゃないですか」
「ごめんなさいね。でも、これは世の中の混乱を避ける為なの」
「じゃ、どうして私にそれを教えたのですか」
「あなたを混乱させない為よ」
「私を?」
「ええ。タイムディストーションは初めてじゃないの。過去の事例からすると、本人にこの事実を知らせないでおくと精神障害に陥ってしまう事が判ってるのよ。だから、あなたには事実を知らせたのよ」
真理は実感としてそれは納得出来た。
しかしせっかく救助されたのに家に帰る事が出来ない。
真理は目の前が真っ暗になった。
マリーさんは続けた。
「それと、もう一つあなたを返せない理由があるの」
「もう一つ?」
「それは、あなたがもう一人のあなたに会ってしまう可能性があるからなの」
「もう一人の私?」
「そう。三月六日時点で真理は日本にいる。その真理に未来から来た真理が会ってしまう」
「会うとどうなるんですか」
「判らない」
「判らない?」
「そういう事例がないから」
私は少し苛立ちを覚えた。
「事例がないからって、それ必ずしもダメと言う理由ではないんじゃないですか」
「そうかも知れないわね。でも、タイムディストーション自体が極秘である分、そうとう危険な事である可能性が高いわ」
「じゃ、私は……」
帰れない、という諦めが心の中に広がった。
マリーさんは首を振って私の手を握った。
「あなたがくれた貴重な情報は必ず活かすわ。そして、お友達のミカさんの命も助ける様に伝えるわ」
「本当ですか」
「ええ」
自分は帰れない。でも美香が助かるのなら。
私は諦めかけた自分にそう言い聞かせた。
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