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初デート(圭介side②)
【本文】
鉄道館に入館し早速引かれない程度に展示車両の解説を入れる。
電車は小学生の頃図書館で時間を潰すのに読んでいた本で詳しくなった。
そういった事情から有名どころの車両のことは大体知っていたが、彼女の前で間違えていたら恥なので念のため事前に調べ直していた。ただでさえ賢い圭介である。調べ出したら止まらなくなり、お陰で鉄っちゃんとまではいかなくとも、一般人と比べたら相当な鉄道マニアになってしまっていた。
そのため語り出したら止まらなくなると危惧し情報は小出しにするように心掛けた。
京香はいちいち圭介の蘊蓄に感心し、興味津々で聞いてくれていた。
館内を回りながら楽しんでもらえているか心配していたものの、京香の反応は大袈裟なくらい楽しそうでそれが圭介にはたまらなく嬉しかった。
展示車両の中に入れば
「うわー!車内レトロで素敵ですね!」
と京香が歓声を上げキラキラした目で車内をキョロキョロ見回している。
(か!かっわーーーー!!!俺の彼女かんわいいいいいいいい)
あまりの可愛さに頬が緩むのが止められない。
愛おしそうに微笑む圭介の顔面破壊力で周囲が色めき立つ。
周りの空気の変化に気付きやってしまったと圭介は後悔した。圭介は注目を集めるのに慣れているので何ともないが、京香にとっては心地よいものではないだろう。
こういうときは気付かない振りをして不機嫌そうな顔をするに限る。
京香がこちらに背中を向けている間は極力目つきを悪くし近寄り難い雰囲気を出した。
それでもやはりにやけ顔が出てしまいどっちつかずな不自然な顔になってしまっていた。
圭介が一旦京香から離れトイレから出てくると、大学生らしき男2人組が京香を遠目に見ながら何やら話している。
「あの子可愛いな。高校生かな」
「どうせ彼氏と一緒だろ。あんまり見るなよ」
「でも眺めるだけならタダじゃん。減るもんでもないし」
「やめとけよ気づかれるぞ」
その会話を聞き苛立ちで顔面の血管が浮き出てきそうになる。
声を掛ける気はないようだが、奴らが京香を見ているということだけでも気に障った。
(人の彼女勝手に見てんじゃねーよ。減るわ。京香の可愛さが減る。目潰すぞ)
と物騒なことを考えながら圭介は急いで京香の元へ向かった。
デートをして彼女を見せびらかせたい等と思っておきながら、結局京香が男の視線を集めるのは許せないという盛大な矛盾。圭介自身はそのことに露ほどにも気付いていなかった。
京香の視界に自分以外が入らないように満面の笑みで近寄り、威嚇の意味も込めて2人組に勝ち誇った視線を向ける。
2人組は圭介のハイレベル過ぎるビジュアルに恐れおののき引き攣った顔を見せた。
同時に周りの女性達もざわつく。
ふんっと鼻息を荒くしていると京香の顔が真っ赤になり恥ずかしそうな仕草を見せる。
これに対し圭介も京香の恥じらう可愛らしい表情にクラクラした。
(ダメだ。これはモザイク案件だ。誰にも見せられない。)
京香の手を取りすぐにその場から立ち去った。
自分の顔の威力をそこそこ理解している圭介は、やはり虫除けの為にも外でも学校でも京香と一緒にいるべきではないだろうかと考えた。
京香の為といいながら実のところ自分が常に傍にいたいだけなのだが。
しかし京香も京香で隙があり過ぎる。もっと自分の可愛さを自覚してほしい。
デート中京香の表情から楽しそうな気持ちは見て取れたのだが、再び不安が湧き起こり帰り路に今日はどうだったかと尋ねてみた。
「はい、とっても楽しかったです!次は運転のシミュレーターもやってみたいですね」
と眩しいほどの笑みで京香が言ってくれた。不安は全くの杞憂だった。
勿論圭介もまたここに一緒に来れたらと思っていたが、京香から言われた『次は』という言葉はあまりに尊くじんわりと幸せが身に染みた。
お昼に弁当を食べた時も、また出掛けた時の為にピクニック用のランチボックスを買ったと言っていた。愛おしさで危うく抱き締めてしまうところだった。ギリギリだった。
京香を守るために今後もあまり頻繁には2人で出掛けられないだろうが、京香の気持ちを尊重しつつ少しずつでも前進出来ればいいなと思った。
帰りの電車の中。陽が徐々に傾きつつある空をボーっと眺めていた。
今は2人手を繋いで座っているがもう何駅か過ぎれば席を離れなければならない。
夜はまた一緒にご飯を食べられるとわかっているのにやはり寂しいは寂しい。
不意に京香が圭介の肩に頭を乗せた。
少し驚いて対面の窓のガラスで自分たちの姿を確認した。
(ぐわああああああ…可愛いいいいいいい…そして良い匂いいいいいいいい…)
動揺を見せないように平静を装う。
疲れているのだろうか。京香が外でこんな仕草を見せるのは意外だった。
どうしたのかと問うと、京香が自分のどんなところを好きになったのかと訊いてきた。
(あれ?毎日のように好きなところを言ってる気がするけど伝わってない?スルーされてる?あれ?)
と疑問に思いつつ、数えきれない京香の好きな所から京香を意識するきっかけになったエピソードを出した。
京香に対しては最初から良い印象しかなかったが、意識し始めたのは自分の噂に腹を立ててくれたことだったと思う。
実際これまで相手がどんな子かも考えずに酷い振り方や態度を取ってきたのだから、噂はほぼ事実と言ってもいい。
もしかしたら中には圭介の中身を見てくれた子や純粋に良い子もいたかもしれない。京香に出会ってそう考えることができるようになった。
それでも京香以外の誰かを好きになることなどないと確信しているが。
圭介の回答に対し京香が不思議そうにしながら圭介の顔も好きだと言った。
(まぁそれはそうなんだろうけど…)
京香が自分の顔に見惚れているのは事実なのでわかってはいるが、はっきり宣言されてもそれはそれで複雑な気持ちになった。
すると京香が
「誰かが言っていたんですよ。外面は内面の一番外側って。先輩は心が優しいから外見も素敵なんですよ」
とさらりと告げた。
そしていつも圭介から元気をもらっているとも。
そんな言葉を掛けられたのは初めてのことで一瞬理解が遅れた。
京香は圭介を励ますためではなく本心から口にしたのだろう。
胸が熱くなり京香の手を強く握り直した。
抱き締めたい衝動が抑えられず途中の駅で京香を引っ張り下ろし、その勢いのまま京香を抱き自分を落ち着かせる。
京香は訳がわからないといった様子でされるがままになっていた。
身体を離し思ったままの気持ちを伝える。
ついでに京香の顔も好きだと言うと、いつものようにそういうのはいいと京香が拗ねた。
いつになったら自らの可愛さを自覚してくれるのか。
この京香のめんどくさいところも実は好きなのだがそれは言わないでおく。
帰りたくないと落ち込むと京香が圭介の手に自分の手を添えて「私も」と少し恥じらいながら言った。
京香のその真っ直ぐな瞳があまりに綺麗で、なんてことのない一言なのに全身が燃えたのかと思うほどに熱くときめいてしまった。
京香のこんな可愛い顔を自分以外の誰にも見せたくない。見られたら終わりだ。
そんなことを思いながら気付いたら京香に口づけていた。
自分でも無意識の行動だったのだが、京香が顔を真っ赤にしていつもキスが不意打ちだと抗議してきた。
思い起こせば毎回そんな感じだったかもしれない。
不意打ちじゃないキスはどうやってすればいいかわからず一応許可を得ようとすると
「遅い!!!」
と猛烈にキレられた。
その恥ずかしそうな顔も可愛くてニヤけてしまい、さらに怒られた。
キスのタイミングも学ばねばと圭介は決意したのであった。
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【後書き】
なんとか書きたいことが詰め込めたのでここで完結としたいと思います。
ニヤニヤを自給自足しようと書き始めた作品でしたが、意外と長くなってしまい自分でも驚いています。
圭介がどんどん残念キャラになっていったのも予想外でしたw
想像以上にたくさんの読者の皆さんに読んでいただけて本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!
(※この作品は「小説家になろう」で連載していたものを加筆修正したものです)
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