241人が本棚に入れています
本棚に追加
2
京香の通う県立高校は県下No.1の進学校だ。
東大をはじめとする旧帝大、国立医学部進学率が高く全校生徒に秀才が揃う。
国立大を目指す京香にはこの高校に通うことが通過点だった。
入学してみたら周りがあまりに賢い生徒ばかりでビックリした。
自分も中学ではTOP3に入る成績だったはずだが今は授業についていくのがやっとだ。
そんな中周りは平然とテストで高得点を叩き出している。
いつ勉強してるの?と思うが、どんなに見た目が派手な子もあからさまに真面目そうな子もみんな息をするように勉強しているのだ。
毎日図書室は満席。自習室も満席。職員室も先生に質問しにくる生徒で溢れていた。
中学時代は面倒な人間関係に巻き込まれないようにとあえて影を薄くして過ごしていた。
だから親密な友人もいなかった。
いてもどうせ高校も離れるだろうし、拗れた時のリスクを考えると作るメリットはないと思っていたからだ。
それでも一人は一人で目立ってしまう可能性もある。
そうならないようカースト中堅クラスのグループに所属しているようないないような微妙な立ち位置にいることに徹した。
見た目もダサ過ぎず派手過ぎず、手を抜いているわけではないというレベルで気を遣っていた。
お陰で京香の周りからの評価は「普通の子」だった。
京香がこの高校に合格したことに驚く子もいた。
勉強ができるという印象を与えていなかったからだ。
良い意味でも変に目立ちたくなかった。
人生何があるかわからない。
何かあった時頼りになるのは自分の知識と経験だけ。
父の死で嫌と言う程実感した。
失ってしまうくらいなら、と余計なことは可能な限り省く癖がついた。
結果友人も特に作らず世界が狭まってしまっていた。
そのため高校入学と同時に急に知らない世界が広がり驚きの連続だった。
周りを見ていないと置いて行かれてしまう。
焦ったものの授業と宿題をこなすのに必死でまた中学の頃と同じようにふわふわしたポジションに落ち着いてしまった。
「そういえば部活の先輩が今更夏期講習の現国は取ったほうがいいって言ってたんだけど」
「え、マジ?早く言ってよー」
(え、マジ?もう夏休み終わりますけど…)
夏期講習の授業が行われていた教室で片づけをしていた京香は耳をすました。
教室では隣のクラスの女子が夏期講習の感想を言い合っている。
(こういうの情報戦だよね…友達もいない、部活も入っていない、中学の先輩に知り合いもいない私にはきつい…)
やっぱり今からでもちゃんと友人を作るべきか悩む。
(でもなぁ…めんどくさいんだよなぁ…)
先ほどの女子生徒たちに話しかける決心もつかず京香は教室を出て図書室に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!