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そろりとドアを開けると圭介がホッとしたように笑った。
「こんばんは。」
「こんばんは。」
「怒って…ない?」
「え?何をですか?」
「図書室で失礼なことを…」
「ああ、別に気にしてないです。むしろ教えてくださってありがとうございました」
よだれのことだ。先ほど忘れると決心したばかりなので忘れたことにする。
「でも、ゴメン。デリカシーなかったと思います。はい。」
「いえ。はい…」
「それで…その…これ…昨日の御礼と今日のお詫びに」
圭介が紙袋を差し出す。
「え!?いいですよ、そんな!大したことしてないですし!」
「いやいや、命の恩人でしょ!」
「そんな大げさな…」
ぐいぐいと押し付けられ仕方なく受け取る。
「ありがとうございます…」
見ると駅前のケーキ屋の袋だった。
「買ってきてくださったんですか?」
「うん…ホントはケーキを渡すつもりが図書室で寝過ごしちゃったから残ってたクッキーになっちゃったけど…重ね重ねゴメン」
しょぼんと俯く圭介のうなじが見えた。
走ったのか首が汗ばんでいる。
(だからあんなに急いでたのか…)
「あそこのクッキー好きなので嬉しいです。わざわざありがとうございます」
「ホント!?よ、よかったぁ…」
力が抜けた圭介が座り込んでしまった。
「そんな気を遣っていただかなくても…」
「ホントにご飯美味しかったからどうしてもちゃんと御礼したくて」
顔が熱くなる。優しい声色から誠実さが伝わりドキドキしてしまった。
「お口に合ったなら良かったです…」
恥ずかしさからか声が小さくなっていく。
「「……」」
気まずい沈黙が続いたかと思うとしゃがんでいた圭介がふらついた。
「やべっ…」
「え??ちょ、大丈夫ですか!?」
京香もしゃがんで目線を合わせる。
「また貧血が来たみたいなんだけど…急に立たなければ大丈夫」
「そういうものなんですか?」
「ふー…」
圭介がゆっくり立ち上がる。
「こんなとこばっか見せて申し訳ない…わざとじゃないんだけど…」
「気にしなくていいですけど…大丈夫ですか?」
京香も立ち上がり心配そうに顔を見つめる。
「うん。もう倒れないから大丈夫」
「でも顔色悪いですよ」
「…」
「食べて…ないですよね」
「…」
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