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またしても気まずい空気が流れる。 食べていない理由を聞くような仲でもないのでどう切り上げようか考えてみたが、結局出した結論は 「昨日の残りで良ければ食べますか?」 「え!!!!いいの???」 圭介はキラキラとした目で詰め寄ってくる。くっ…美形の笑顔は目に悪い。 「はい。よければ…」 「是非!!」 (ホントに嬉しそう…そんなにお腹空いてるのかな) 「えっと、じゃあまた持って行きます。部屋で待っててください」 「ありがとう!」 ウキウキと部屋に帰っていく圭介。 足取りは軽やかだった。 (貧血治ったの…?) 昨日のまま出すのも味気ないと思い、温めた鶏肉と野菜の甘辛煮に半熟の目玉焼きを乗せた。 さらに甘辛煮の残っていたタレも掛ける。 ご飯もよそって完成。 (これでちょっとは新鮮味が出るかな) 出来たご飯を持って202号室のインターホンを鳴らす。 すぐさまドアが開き待ち遠しかったといわんばかりの笑顔が出てきた。 「昨日に引き続きありがとう…!って卵乗ってる!」 「え、卵お嫌いですか?」 「好き!大好き!絶対合う!」 (ま、眩しい…!) 京香は圭介の笑顔に中てられて全身が沸騰しそうだった。 「あ、じゃあまた食べたらドアの外に置いておいてください」 「了解です!」 ご飯を渡して部屋に引き返そうとすると圭介に呼び止められた。 「白洲…さん…だよね」 「はい。」 「うちの高校の1年だよね」 「? はい。そうです」 京香が通う高校は校章の色で学年がわかる。図書室でそれを見ていたのかもしれない。 「俺お返しできるものがあまりなくて御礼になるかわからないんだけど、学校のお役立ち情報とかなら教えてあげられると思うんだ」 「え!!ホントですか?」 ちょうど今日思い悩んでいたことの解決方法を提示され思わず食いついてしまった。 「うん。俺2年だし。そんでもって一応だけど…学年1位だから勉強方面も教えられると思う」 「!!!!!」 驚きのあまり声が出ない。 あの高校で学年1位ということは東大合格がほぼ約束されているようなものだ。 「お役立ち情報といってもテストの出やすいとことかおススメの参考書とかくらいしかないけど…」 上を見上げながら圭介は何かないかと思いを巡らしている。 「あ、あと文化祭のサボり方とか…」 「宜しくお願いします!!!!」 京香は最後の決め手を打たれ勢いよく頭を下げた。 何と言う幸運。こんな身近に貴重な情報源があったとは。 しかも『文化祭のサボり方』なんて京香が最も欲しい情報だ。 学校では極力勉強以外の要素を削りたいと思っている京香にはとても有難かった。 突然の京香のお辞儀に驚きつつ圭介は安堵したような笑顔を見せた。 「良かった…えーっとじゃあどうしよう。知りたいことがあれば教える感じでいい?」 「はい!出来ればすぐにでも…10月の実力テストの対策がしたいんですが…」 「ああ、それなら過去問あげるよ。」 「え!?いいんですか!う、嬉しいいぃぃ…」 相談する友人も母もいない今の京香には圭介が神様のように見えた。 「御礼になるかな」 「もちろんです!ありがとうございます!」 「いつでも知りたいことあれば連絡くれれば答えるよ。俺あんまり家にいないから連絡先教えてくれれば…」 「はい!QRこちらです!」 スマホのメッセージアプリの画面を開き圭介の目の前に突きつける。 いつもの京香であればのらりくらりと連絡先交換をスルーするのだが、今日に至ってはそんな警戒心もどこかへ行ってしまっていた。 「なんか急に乗ってくるね」 圭介も苦笑いだ。 「私高校に友達いないし部活もしてないし中学のときの先輩も知らないし…情報交換できる人がいないんです。少しでも知ってることがあると楽になるので…お手数お掛けしちゃうんですが琴吹先輩に教えてもらえると本当に助かります」 京香からしたら切実な悩みだ。 「そうなんだ。てか実は大家さんにも白洲さんが困ってたら助けてあげて欲しいって言われてたんだよ」 「え!?そうなんですか?」 「うん。昔から大家のおばちゃんに良くしてもらっててさ。白洲さんが入居するとき後輩をよろしくって」 「そうだったんですね…」 「でもさっきも言ったけど俺あんまり家にいないから…白洲さんと顔を合わせることもなく…ゴメン。むしろ助けてもらってばっかだし」 「いえ!そんな!私もちゃんとご挨拶せずすみませんでした…。あ、あの、ご飯冷めちゃいますよね。今日はこれで失礼します!」 「ご飯ありがとう。何かあれば何でもいいからすぐ連絡してね」 「はい。ではまた。おやすみなさい」 「おやすみなさい」 京香はゆっくり自室のドアを閉めて一息ついた。 (昨日からなんだか怒涛の展開が…なんだこれ…) ボーっと玄関で立っていたらメッセージアプリの通知が来た。 はっとしてスマホのロックを解除する。 圭介から友達申請が来ていた。 承認ボタンを押す。 するとすぐにメッセージがポンッと現れる。 『琴吹圭介です。ご飯美味しいです。ご馳走様でした。これからヨロシク』 すぐさま返信する。 『白洲京香です。お粗末様でした。これから宜しくお願いします』 既読がついたのを確認して画面を閉じた。 もうすぐ夏休みも終わり新学期が始まる。 この半年にはなかった新しいことが待っている気がした。
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