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夫は暫くの沈黙の後にこう言った。
「子供にとっては両親揃っていた方が何かと都合がいい」
自分の過去を思い出せば、田舎で生まれ育ったので母子家庭であることで揶揄われたことが何回もあった。
確かにこの子にそんな思いはさせたくない。
夫に私の顔色が変わったことを見透かされた。
「東京にいればお受験もさせられるし、いい教育を受けさせられる。子供にとってよりいい環境における。それに梨花も子供が小さいうちは働かなくて済む」
私は何にも言えなかった、夫の方が正しいからだ。
夫は深々と頭を下げた。
「だから離婚するのは思いとどまってくれ」
確かにこの子の為には離婚しない方がいいだろう。そう思うとまだ夫にも価値があるように思えてきた。
暫くの間はこのまま夫に愛情なく結婚生活を送るのもいいのかもしれない。
けれど自分でも信じられない言葉が次の瞬間に口から出てきた。
「じゃあ、もう浮気しないで。家に真っ直ぐ帰ってきて」
私はそう言って泣いていた。
何度も謝る夫をぼんやり眺めていた。
自分はどうやら夫からの愛情をまだ求めていたらしい。
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