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大丈夫、今日は大丈夫。
手応えは十分。今まで書いた中でも満足のいく出来だった。
大きく息を吸って、吐く。
落ち着こう。時間も場所もしっかりと明記した。
午後四時。校舎裏にある大きな桜の木の下。うん、間違いなく書いた。
今は桜が散り、全ての葉が落ちて見る影もない桜の木。時折秋風が吹くたびに私は身を縮める。
最近、本当に寒くなってきた。
手を擦り合わせ、息を吹きかける。
携帯を取り出す。そこに映った私の顔に驚いた。
頬を叩いて気合を入れる。こんな顔見られたら、向こうが嫌になる。
背後に感じる人の気配。来てくれた!
現れたのは男子生徒。
ベリーショートのツンツン頭に、細い眉。厳つい目。
制服の第一、第二ボタンが開いたままで、ポケットに両手を突っ込んだガラの悪そうな中肉中背の男子生徒。
その顔を見て落胆する。
「なんだ、圭介かぁ」
「悪いな、俺で」
ばつが悪そうな返事をする圭介。
『九条(くじょう)圭介(けいすけ)』はお隣さんの同級生。顔が怖いけど話してみると全然。見かけだけで、優しい気が利くいい子。
足元の枯葉を踏みちらしながらこちらへ来る。
「綾音(あやね)もう時間だぞ」
「あ、あれ~? もうそんな時間? 全然気づかなかった」
「・・・・・・もう帰ろうぜ。ラーメンおごるからよ」
「待って。もう少し待ってみる。片岡君、来てくれるかもしれない」
「片岡? 片岡ってA組の?」
「そうだけど?」
聞いて圭介の顔が曇った。
コイツは顔によく出てしまう。何となく、分かってしまう。
「何か知ってるの圭介」
「片岡なら、帰ったよ。三時間も前に、女連れて」
包み隠さず、ありのままの事実を言ってくれた。
そっか、またダメだった。
何かが喉元までせりあがってくるが、それを必死に押し殺した。
「あちゃー、今回もダメだったか。まぁ、良いか! 何事も続けていればいつか必ず報われる! よーし! それじゃあ今日もラーメンご馳走になります圭介君!」
ビシッと圭介に向かって敬礼。
圭介はただ、少し笑って。
「よっし、任せろ。振られるたびにラーメン奢るって約束したのは俺だしな」
「そうだね! このままだと、圭介の財布が空っぽになるね」
「それまでに何とか見つけてくれよ」
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