5.折り返し

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ああ、口の中がカラカラ。早くお水が飲みたい。 いつもの6時半にセットした目覚ましより、少し早く目が覚めて台所に行く。グラスに水を注いで、一気に飲んで手の甲で口を拭った。たかが折り返し一本が来ないだけで。まったく、情けない。36でこれか。顔を洗い、歯を磨き、乳液でマッサージしたら少し気分が良くなった。でも鏡を見るとまた情けなくなったけど。目の下にくっきりとしたクマがある。今日はコンシーラー多めだな。 そうだ、携帯、携帯。どこだっけ?確か枕元に。あれ?無い。ああ、昨日ソファーに置きっぱなしにしたんだ。あ、バッテリーが切れてる。大学に行く前に急いで充電しなくちゃ。バッテリーにつないで、出勤の準備をする。食欲なんて無いけど、今日は午前いっぱい続けざまに講義が入っているから、食べなきゃ。濃いめのミルクティーを淹れて、トーストとゆで卵とパプリカを食べる。メイクを仕上げて、両頬を軽く叩いて、歯を磨いて、よし出勤だ。ひとまず大阪城は置いておこう。鍵をかけたところで、携帯を忘れたことに気付いた。しまった、充電してたんだ。慌てて携帯をひっつかんで、駅までの道を急ぐ。 急ぎながら頭の中で今日の一連のスケジュールを確認する。午前中は講義三昧。嬉しいな。私は講義が大好き。学生にとっての新しい内容を、いかに興味深くわかりやすく伝えるか、ワクワクしながらスライドを作成する。そしてライブ感覚の授業をする。絶対に寝たりなんかさせない。次から次に考えさせて討論させる。小児看護のやりがいを心をこめて伝える。よし、大丈夫。頑張ろう。 楽しく講義を終えて、昼休みに入った。今日はどこで食べようかな。そうだ、13時から院生との面談が入ってるんだった。てことは、学食がいいな。携帯をチェックしようとしたら、林先生の顔が覗いた。 「どう、お昼行かない?学食だけど。」 私は携帯をしまった。 「いいですね、今ちょうどそう思ってたところです。」 「よし、じゃあ行こう。混む前に。」 私たちは連れだって階段で(エレベーターはこの時間はなかなか来ないから)学食に向かった。注文を終えて(林先生も私も鶏のから揚げ定食)、席につく。 「今日は連続の講義、お疲れ様。相変わらず楽しい授業だったみたいね、笑い声が聞こえてきた。」 「ああ、先生いらしてたんですか。」 「ちょっと覗いた。だって竹林先生の授業は勉強になるもの。ほんと、私も学生の一人になって聞いちゃう。」 「そんなに言って頂くと、とても嬉しいです。」 「ともかく講義好きでしょ?」 「はい。」 「いいこと、いいこと。何よりです。その調子で研究と論文もバリバリやっちゃって。」 「はい、肝に命じます。」 あははと明るく笑って、林先生はから揚げを放り込む。食べ方もあっけらかんとしていて良い。
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