2.オンリーワン

2/2
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
どうやら会議が終わったらしい。 談笑が聞こえる。一番に出てきたのは、ああこの人か、やっぱり。端正な佇まいで、でもやたら背が高い。そして、指が細くて長い優美な手をしている。外科医の手。この人が君島駿(きみしましゅん)、病院始まって以来の若手部長か。全体的に、さっきの若林先生とは正反対な感じがするけれど。でも、だからかえって相性はいいのかもしれないな。 さてと、美紗、もう外科医たちのことは沢山。切り替えていくよ。この倫理員会、絶対パスするんだから。そう決意して座った座席の下に、ボールペンが転がっていた。よく見ると、綺麗な深緑の、でもだいぶ年季の入ったボディに、Dr. Seiji Wakabayashi, SFUHと彫ってあった。ボールペンを拾った。ただそれだけのことなのに、運命を感じた。やっぱり絶対この人にもう一度会う。 その夜、私は付き合っていた三人にメールやら、電話やらで別れを告げた。そう、三人。みんな良い人だったけど、一人に絞るには少しづつ足りなかった。だから三人まとめて一人、みたいにして付き合っていた。学生時代から、本当にこの人だと思える男に会えて来なかった。親友の麻が15年間もしっかりと一人の人を想い続けてきたのとは正反対で、私はふらふらと夢の中をさまよっているようだった。オンリーワンを探して。だから勿論沢山付き合いはしたけど、どの人とも続かないし、別れが来てもさほど悲しくなかった。どこにいるんだろう、私が恋い焦がれるオンリーワンは、と悲しく思い続けてきた。でも、やっと出会えた。あの人だ、あのたぎる瞳、怒っている大きな身体。そして、私がいつも仕事上で思ってきたことを、躊躇せず大声で伝えられる、あの人。 絶対にあの人と一緒にいたい。あの人こそ捜し求めてきた人だ。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!