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4.麻1
お次は我が親友、麻。今は育休明けで小児でリサーチナースをやってるから、少し時間をとってもらえそう。
「麻、ちょっと長めにランチの時間とれる時あるかな?」
「美紗、ご無沙汰―。長め?珍しいね、美紗がそんなこと言うなんて。いつだって“ランチは20分死守”とか言ってるくせに。」
「うん。」
「もしかして、何か深刻にトラッブった、三人衆と。」
麻は最近まで同時進行していた例の三人をこう呼ぶ。
「ああ、それはもう別れた。」
「へっ、全員と?一気に?まとめて?」
麻の慌てぶりが面白くて、つい笑ってしまう。
「何笑ってんのよ?悲しくないの?」
「いや別に。私からだっだし。」
「美紗、あんた本当に変わらないよね、大学ン時から。」
変わらない?最近、どこかで同じようなフレーズを聞いたような。ああ、そうだ、若林先生の話でだった。ふふ。
「あんた、今また笑った?」
「ああ、ごめん。いやそれで都合つきそう?」
「そうだった。ええとね、明後日ならランチ11:30から出来るよ。13時からは会議入っちゃってるんだけど。」
「その日なら私も授業は二限までだからバッチリ。ありがとね。」
「美紗、事前学習何かある?」
私たちはお互い多忙でなかなか会えないし、会えても短時間だから、いつしか、その日に話すトピックについて、会う前に出来るだけ情報を仕入れておいて、効率よく話をすすめる、という暗黙のルールが出来ていた。なんだか業務連絡みたいで味気ない気もしたけど、今はお互いに時間が無い時だから仕方ない。そのうち、一日中お茶を飲んでゆっくり語れるようになる時を楽しみに待つ。
「咲夜さんに、」
「へ、咲夜が関係あるの?」
麻は、ちょっと弾んだ声になった。
「麻、あんたさあ、結婚して何年か経つのに、相変わらず嬉しそうだよね、咲夜さんの名前言う時。」
「えへへ、そうかな。」
「もう。あんたが本当に幸せで私は嬉しいよ。」
「んふ、ありがとう。で、咲夜なの?」
「うん、咲夜さんに若林先生のこと、聞いといて。」
「若林って、あの若林先生?嵐の?」
「うん、嵐の。」
「美紗、あんたまさか、まさかとは思うけど。ついにそこ行っちゃうわけっ?」
「そこ、とは?」
「しらばっくれるんじゃないわよ。もはやあの難攻不落ぶりは大阪城的な。」
「大阪城って。麻ってほんと仕事離れると俄然面白くなるよね。」
「失礼な。仕事中もユーモア満載ですよ。」
「あはは。」
「いや、そうじゃなくて。まあ、ともかく明後日ゆっくりね。咲夜に聞いとくから、大阪城のことは。」
「うん、サンキュ。じゃあ11:30に病院玄関でいい?」
「いいよ。じゃあ明後日楽しみにしとくね。」
「バイ。」
そう言って、私たちは電話を切った。麻、どういう風に咲夜さんに聞くんだろう。でも、きっとズバッとだろうな。あの咲夜さん相手ならそれが一番。何ってたって本人のモットーが”正面突破“なんだから。麻からそれを聞いた時には、吹き出した。さすが、伝説。これ以上ピッタリなモットーがあるだろうか。私は麻と咲夜さんを思って、ちょっと笑った。大好きな大切な二人。
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